気分障害は、これまでの「躁うつ病」とほぼ同じであるが、単極性障害(うつ症状のみの大うつ病と気分変調症)と双極性障害(躁とうつ症状を繰り返す)に分けられている。感情障害を主症状とし、人格の荒廃を来さない。
うつ病の生涯有病率は約6.5%で、女性は男性の2倍である。双極性障害は人口の約1%に見られる。
双極性障害のうつ病エピソード(双極性うつ病)は、過少診断されがちで、難治例が多く、自殺のリスクが高く、躁転リスクがあるなどの問題を抱えている。
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主にセロトニンやノルエピネフリンなどのモノアミンのトランスポーターによる再取り込みを阻害することで、これらの伝達物質の作用を増強して効果が発現すると考えられている。最初に登場した三環系抗うつ薬は、抗コリン作用や抗α1作用、過量での致死性などの副作用があったため、抗コリン作用の少ない四環系、さらに副作用の少ない選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異 的セ ロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)が開発された。
抗うつ薬 の分類 | 作用機 作、特徴および副作用 |
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三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressants) | NEと5-HTに 対しては、取り込み抑制が受容体遮断作用より強い。抗ACh、 抗His(H1)作 用がある。正常人にはほとんど作用なし。効果が出るのに3-4週かかる。その間、思考力や集中力の低下をきたす。抗コリン作用は強く、口渇、便秘、頻脈、排尿障害などがみられる。その他、起立性低血圧(α1の遮断による)。緑内障には禁忌。 |
四環 系抗うつ薬(tetracyclic antidepressants) | ACh性受 容体の遮断作用は弱い。抗5-HT、抗α2、抗His(H1)作 用がある。有効スペクトルが広い。不安、不眠、食欲不振に有効。速効性で抗コリン作用は少ない。 |
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin-reuptake inhibitors, SSRI) | 副作用が少ない。不安障害(パニック障害、恐怖性障害、外傷後ストレス障害、強迫性障害など)にも有効。リチウム(lithium)や他のセロトニン作用薬との併用によりセロトニン症候群(錯乱、発熱、ミオクローヌス、筋硬直など)が生じることがある。5-HT3受容体刺激による悪心・嘔吐や下痢、5-HT2受容体刺激による性機能障害などをおこすことがある。 |
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-norepinephrine reuptake inhibitors, SNRI) | 第4世代薬であり、5-HTとNEの 取 り込みを同程度に阻害し、他の受容体との親和性を示さないのが特徴である。抗うつ効果はSSRIよりも強く、5-HT1Aの脱感作が速いため に、より速効性である。抗コリン作用はほとんどない。卒中後のうつ病 にも有効。不安障害 にも有効。NEは慢性疼痛にも関与するので、糖尿病性神経障害、線維筋痛症、腰痛などの慢性疼痛にも使用される。NE受容体刺激による尿閉、頭痛、頻脈・血圧上昇などをおこすことがある。 |
ノルアドレナリン作動性・特異 的セ ロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant, NaSSA) | セロトニン神経のシナプス前α2ヘテロ受容 体を阻害し、セロトニンの遊離を加させる。増加したセロトニンは、後シナプスの5-HT1受 容体(抗うつ効果)を選択的に活性化さ せる。5-HT2や3受容体を阻害するので焦燥感や衝動性などの副作用が出にくい。また、ノルアドレナリン神経に対してもシナプス前α2受容体を阻害しノル アドレナリンの遊離を増加させる。トランスポーターの阻害作用は弱い。抗H1作用による催眠や体重増加をおこすことがある。 |
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分類 | 薬物 | 取り込み阻害など | NE RI (nM) | 5-HT RI (nM) | 鎮静作用 | 抗コリン作用 |
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三環系 | イミプラミン(imipramine) | 5-HT and NE | 37 | 1.4 | ++ | +++ |
デシプラミン(desipramine) | NE and 5-HT | 0.8 | 17.5 | + | + | |
アミトリプチリン(amitriptyline) | 5-HT and NE | 35 | 4.3 | +++ | +++ | |
ノルトリプチリン(nortriptyline) | NE and 5-HT | 4.4 | 18.5 | ++ | ++ | |
四環系 | ミアンセリン(mianserin) | シナプス前α2阻害 | 71 | 4000 | +++ | + |
マプロチリン(maprotiline) | NE and 5-HT | 11 | 5900 | ++ | ++ | |
SSRI | フルボキサミン(fluvoxamine) | 5-HTに選択的 | 1300 | 2.2 | + | + |
パロキセチン(paroxetine) | 5-HTに選択的 | 40 | 0.1 | + | 0 | |
セルトラリン(sertraline) | 5-HTに選択的 | 900 | 1.0 | + | 0 | |
SNRI | ミルナシプラン(milnacipran) | NEと5-HTに選択的 | 83 | 9.1 | 0 | 0 |
デュロキセチン(duloxetine) | NEと5-HTに選択的 | 7.5 | 0.8 | 0 | 0 | |
NaSSA | ミルタザピン(mirtazapine) | NEと5-HTの取り込み阻害は、α受容体阻害よりも弱い。 | + | 0 |
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遺伝学的解析が始まった1990年代に、ヒトのセロトニントランスポーターをコードする遺伝子に多型が存在することが発見され、その多型とうつ病や性格との関連についての研究が世界中で盛んに行われました。具体的には、セロトニントランスポーター遺伝子には、短いS型と長いL型の2種類があります。S型を2本持つSS型、L型を2本持つLL型、そしてS型とL型を1本ずつ持つSL型に分類されます。そして、SS型の人はSL型、LL型よりも不安を感じやすいかつうつ病になり易いという2003年にScience誌に発表された論文がインパクトを与えました。しかし、2017年4月に発表されたメタ解析の結果、この仮説は否定されました(R. C. Culverhouse et al. Mol Psychiat 23, 133, 2018、論文をみる)
関連サイトの紹介
1、管理薬剤師.com 抗うつ薬(三環系・四環系・SSRI・SNRI・NaSSA他)
2、脳科学辞典 統合失調症 抗うつ薬
(三木、久野)