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1、消化性潰瘍治療薬(Drugs for peptic ulcer)

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制酸薬は急性症状の抑制には用いられるが、慢性的な潰瘍の治療薬としては用いられない。

i)胃酸分泌抑制薬

分類

薬物

作用

ムスカリンM1受容体拮抗薬

ピレンゼピン(pirenzepine)

副交感神経節のムスカリン受容体(M1)に働き、Achの分泌を抑えて、胃酸分泌を抑制する。H2受容体拮抗薬より弱い。現在は、ほとんど使われない。

H2受容体拮抗薬

シメチジン(cimetidine)、 ラニチジン(ranitidine)、ファモチジン(famotidine)

H2受容体を介したプロトンポンプを抑制する。分泌抑制は強力。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)

オメプラゾール(omeprazole)

ランソプラゾール(ransoprazole)

壁細胞のH+分泌を行うプロトンポンプ(H+, K+-ATPase)を不可逆的に阻害する。このため、胃酸分泌抑制効果は薬物が血中から消失後も持続する。酸による活性化が必要で、作用発現が遅い。作用は強い。ランソプラゾールは、速効性があり、主に非酵素的に代謝されるため、 薬物代謝酵素 CYP2C19 の遺伝子多型の影響を受けにくい。

エソメプラゾール(esomeprazole)オメプラゾール(omeprazole)のS-エナンチオーマであり、オメプラゾール(omeprazole)に比べて1.7倍初回通過効果を受けにくいので、より強い胃酸分泌抑制効果がある。

ボノプラザン(vonoprazan)potassium-competitive acid blocker(P-CAB)で、K+と競合してプロトンポンプを可逆的に阻害する。酸による活性化を必要としないため、作用の発現が速い。既存のPPIに比べて酸に安定で水溶性に優れており、かつ遺伝子多型のある酵素で代謝されない。胃潰瘍を始めとした全ての胃酸関連疾患において、ランソプラゾールに対する非劣性と安全性が各種臨床試験で確認された。

抗ガストリン薬

セクレチン(secretin)、プログルミド(proglumide)

ヒスタミン分泌を行うガストリンの作用を阻害し、作用はH2受容体拮抗薬より弱い。

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酸分泌抑制薬と防御因子増強薬との併用には十分なエビデンスがない。

分類

薬物

作用

粘膜保護

ゲファルナート(gefarnat)、 テプレノン(teprenone)、スクラルファート(sucralfate)

制酸作用と抗ペプシン作用を示す。酸性条件下で重合してゲル状となり、長時間粘膜に付着し保護する。エビデンスはあるが、上のような作用機序なので空腹時に服用する必要がある。

胃粘膜微小循環改善薬

セトラキサート(cetrxate)

PGE2、I2合成促進作用を持つ。

プロスタグランジン類

PGE1, E2, I2, misoprostol

胃粘液分泌促進作用、粘膜保護作用、胃酸分泌抑制作用を持つ。

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嘔吐は胃に入った有害物質などを排出する生理的な反射であるが、動揺病(乗り物酔い)、妊娠性悪阻(つわり)、手術後や毒物、薬物によって嘔吐が起こる。対症療法が主であるが、動揺病などの予防に制吐薬が用いられる。嘔吐は延髄の迷走神経背側核付近にある嘔吐中枢が興奮して起こる。嘔吐中枢の興奮は中枢性には第四脳室底の最後野にある chemoreceptor trigger zone (CTZ) に化学物質が作用することにより、また末梢性の刺激により嘔吐中枢への求心路を介しても起こる。癌の化学療法の進歩に伴って、悪心・嘔吐が苦痛度の高い副作用となっている。抗癌剤により、小腸のクロム親和性細胞(EC cells)が障害を受け5-HTやsubstance Pが放出され、迷走神経の5-HT受容体やNK1受容体を刺激して、CTZを興奮させ、悪心・嘔吐が生じる。


1)制吐薬

分類

薬物

主な作用部位

特徴

D2受容体
遮断薬

クロルプロマジン(chlorpromazine)
レボメプロマジン(levomepromazine)
ハロペリドール(haloperidol)
ドロペリドール(droperidol)
スルピリド(sulpiride)

CTZのdopamine受容体とH1受容体遮断。ブチロフェノンやフェノチアジンは、血液脳関門(Blood brain barrier、BBB)を通過するので、CTZ以外に嘔吐中枢のD2受容体も遮断する。

毒素、薬物による嘔吐に有効、動揺病には無効

ドンペリドン(domperidone)
メトクロプラミド(metoclopramide)

臨床でよく用いられるdomperidoneは、BBBを越えないため、CTZのD2受容体のみを遮断する。

抗ヒスタミン薬

ジフェンヒドラミン(diphenhydramine)
マクリジン(macridine)
ジメンヒドリナート(demenhydrinate)

嘔吐中枢のH1受容体の遮断

動揺病の予防、治療

抗コリン薬

アトロピン(atropine)
ブチルスコポラミン(butylscopolamine)

ムスカリン受容体の遮断

消化管の緊張低下

抗セロトニン薬

オンダンセトロン(ondansetron)
グラニセトロン(granisetron)

求心性迷走神経終末とCTZに存在する5-HT3受容体を遮断

抗癌剤による嘔吐(急性悪心・嘔吐)に有効

抗タキキニン薬アプレピタント(aprepitant)substance P受容体(NK1)
を遮断
抗癌剤による嘔吐(遅発性悪心・嘔吐)にも有効。
CYP3A4で代謝されるので、他の薬物(docetaxelなど)との相互作用に注意

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(7)胆汁酸トランスポーター阻害薬
胆汁酸は、肝臓でコレステロールから合成され、胆嚢・胆管を経て十二指腸に分泌される。胆汁酸は、脂肪や脂肪性ビタミンの消化・吸収などに関与する他に、腸粘膜に作用して蠕動運動を亢進し、緩下剤様に作用する。胆汁酸は、そのほとんどが回腸で再吸収されて肝臓に送られ再利用される。この胆汁酸の再吸収には回腸のトランスポーターが関与しており、トランスポーターを介して胆汁酸は体内に再吸収される。エロビキシバット(Elobixibat)は、この胆汁酸トランスポーターを特異的に阻害することで、腸管内の胆汁酸が増え、腸の蠕動運動が活発化するとされている。

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潰瘍性大腸炎(ulcerosa colitis)クローン病(Crohn's disease)が代表的で、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができ、粘血便や下血や腹痛などの症状がでる原因不明の慢性炎症性疾患である。治療の目標は、大腸の炎症を抑えて症状を鎮め寛解に導くこと、そして炎症のない状態を維持することである。薬物療法としては、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が基本薬となり、炎症が強い場合には、ブレドニゾロン(prednisolone、ブデソニド(budesonideなどのステロイドが用いられる。免疫抑制薬(アザチオプリン(azathioprine、タクロリムス(tacrolimusなど)、抗TNF-α抗体(インフリキシマブ(infliximab、アダリムマブ(adalimumab、ゴリムマブ(golimumabなど)、抗菌薬などが用いられる。

5-ASA製剤(メサラジンmesalazine)、サラゾスルファピリジン(salazosulfapyridine
サラゾスルファピリジンは体内で代謝され、スルファピリジンとメサラジン(5-アミノサリチル酸:5-ASA)に変換される。メサラジンは、T細胞やマクロファージに作用してIL-1, 2, 6 産生を抑制が炎症を抑える。メサラジンを成分とする製剤で主に小腸から大腸にかけてメサラジンが放出されるように造られた製剤がペンタサ®である。また、メサラジンをより大腸で放出されるようし、潰瘍性大腸炎治療により効果をあらわすように造られた製剤(pH依存型放出調節製剤)がアサコール®である。その他、胃内及び小腸付近でのメサラジンの放出が抑制され、大腸付近に移行すると徐々(持続的)にメサラジンが放出されるよう工夫されたメサラジンのフィルムコーティング錠(リアルダ®)もある。メサラジン自体は古い薬であるが、これらのDDS(drug delivery system)製剤の開発によって、潰瘍性大腸炎の治療は飛躍的に進歩した。

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