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従来の虚血性心疾患:労作性(安定)狭心症、異型(冠攣縮)狭心症、不安定(冠血栓性)狭心症と心筋梗塞の4つは、その病態発現機構や治療戦略の違いにより、慢性冠動脈疾患(chronic coronary artery disease、CAD)と、急性冠症候群(acute coronary syndrome、ACS)に分類されるようになってきた。慢性冠動脈疾患は、安定した動脈硬化による心筋の酸素不足を引き起こす疾患群であり、労作性(安定)狭心症と異型(冠攣縮)狭心症が含まれる。急性冠症候群は、不安定狭心症と心筋梗塞(非ST上昇型、ST上昇型)を合わせた疾患概念で血管内皮の損傷部位に形成されたアテローム性プラークの破綻により引き起こされる。これには血栓予防治療が重要である。

狭心症(Angina pectoris)は、心筋の酸素の需給のバランスの破綻によって生じる一過性の心筋虚血の状態である。特有の胸部痛(狭心痛)を伴っている。狭心痛を伴わない無症候性心筋虚血という状態もある。可逆性であり、心筋壊死を伴わない。狭心症の薬物治療は(1) 心臓への酸素の供給を増加する、(2) 心臓の酸素要求量を減らすという2つが目的となる。心筋の酸素必要量はおおまかには double product [心拍数 x 収縮期血圧]に比例している。従って、心臓の酸素要求量を減らすには、薬物によりいかにこのdouble productの値を減少させるかを考えればよい。

狭心症は労作性(安定)狭心症安静時(冠攣縮)狭心症にわけられる。前者は、冠動脈の動脈硬化による狭窄などが主な原因で、一定のdouble productを越えた労作により誘発される。後者は、冠動脈の局所的な攣縮(spasm)が原因となりおこる一過性の虚血による狭心症である。それぞれの病因の特徴により、選択する薬物が異なる。

心臓への酸素供給を増加させる目的では 冠動脈拡張作用を持つ亜硝酸薬、Kチャネル開口薬であるニコランジル(nicorandil)、Ca拮抗薬が用いられ、心臓の仕事量を減少させる目的ではβ受容体拮抗薬やCa拮抗薬のある種のものが用いられる。

労作性狭心症発作の治療にもっともよく用いられる亜硝酸薬は、冠動脈拡張より、実際には体循環の静脈系を拡張し、血液の心臓への還流量を著減させることにより前負荷を軽減し、心臓の仕事の負担を減らすことがもっとも重要な機構である。亜硝酸薬は、その他、心臓の収縮性を直接抑制することにより、心臓の仕事量を減少させる作用もある。

冠動脈のspasmsによって起こる安静時狭心症の治療では、血管平滑筋の収縮緩解が大切で、Ca拮抗薬を第一選択薬とする。いずれの薬物を選択しても、血小板機能抑制療法(aspirin)や抗凝固療法(warfarin)を行う。


1、抗狭心症薬

分類

薬物

特徴

亜硝酸薬

ニトログリセリン(nitroglycerin)
二硝酸イソソルビド(isosorbide dinitrate)
亜硝酸アミル(amyl nitrate)
ニコランジル(nicorandil)

平滑筋の拡張作用、特に静脈の拡張を引き起こす。硝酸薬からの一酸化窒素(NO)が放出され、cGMP産生をへて血管平滑筋を弛緩させる。ニコランジルはATP感受性Kチャネル開口薬作用もある。

β受容体拮抗薬

プロプラノロール(propranolol)
アテノロール(atenolol)
メトプロロール(metoprolol)
カルベジロール(carvedilol)

心拍数や収縮力の減少、血圧低下作用を持ち、狭心症の予防に用いられる。β2受容体遮断作用により冠動脈に対して収縮的に働くので冠攣縮性狭心症には単独で用いるべきではない。

Ca拮抗薬

ニフェジピン(nifedipine)
ジルチアゼム(diltiazem)
ベラパミル(verapamil)
ベニジピン(benidipine)

動脈平滑筋のL型Caチャネルを抑制して、弛緩と血管拡張を引き起こす。抗スパスムス作用が強く、冠攣縮性狭心症の第1選択薬である。β受容体拮抗薬よりも重篤な副作用は少ない。ベラパミルは心筋抑制と徐脈作用が強く,抗狭心症薬として単独で使用されることはほとんど無い。

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