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統合失調症(精神分裂病)は、人口の約1%に見られ、多くは青年期に発症し、妄想、幻覚のほか、自我や感情障害などを主症状とし、再燃と寛解を繰り返す。

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A.神経系の発達障害

1)前頭部低活性(hypofrontality)PETやSPECTで、前頭葉の血流低下が見られ、陰性症状と相関する。
2)新皮質-辺縁系の広範な神経回路障害がある。
3)認知回路網の発達障害による異常がある。

B.ドパミン(Dopamine、DA)系の異常(DA過剰説)

D4受容体の増加、D1受容体の減少。シナプス間隙のDAレベルが高い。また、DAによるD2受容体の占有率も高く、これが陽性症状と相関する。D2受容体のミスセンス変異などが報告されている。

C.グルタミン酸系の異常

NMDA受容体の機能障害がある。PCP(NMDA受容体阻害薬)が妄想・幻覚を引き起こす。

D.セロトニン系の異常

5-HT2阻害薬のクロザピン(clozapine)やリスペリドン(risperidone)が陰性症状に対して有効である。5-HT2A mRNAが統合失調症の前脳皮質で低下している。LSDやpsilocibinなどが幻覚を引き起こす。DA過剰説のみでは陰性症状の説明ができない。

E.脳内キヌレン酸の異常

トリプトファン代謝物のキヌレン酸が増加している。キヌレン酸はグルタミン受容体を遮断する。

F.遺伝子解析

一卵性双生児の統合失調症発症の一致率は約70%と高いことから遺伝的素因の関与が強く疑われてきたが、現在では、広範な標的遺伝子群のどれかに新しい機能破壊変異が生じた場合に、統合失調症という症状が現われるという多標的遺伝子仮説が有力である。

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第1世代薬(定型薬)

高力価群

低力価群

中間・異型群

D2遮断作用が強い。錐体外路症状がでやすい。鎮静・循環系の副作用が少ない。

鎮静作用が強い。錐体外路症状がでにくい。自律神経や循環系の副作用が出やすい。

鎮静作用や錐体外路症状は軽い。賦活作用がある。

フェノチアジン(phenothiazine)系

フルフェナジン(fluphenazine)
ペルフェナジン(perphenazine)

クロルプロマジン(chlorpromazine)
チオリダジン(thioridazine)

プロペリシアジン(propericiazine)

ブチロフェノン(butyrophenone)系

ハロペリドール(haloperidol)、スピペロン(spiperone)

フロロピパミド(floropipamide)

モペロン(moperone)

イミノジベンジル(iminodibenzyl)系



カルピプラミン(carpipramine)
クロカプラミン(clocapramine)

ベンズアミド(benzamide)系



スルピリド(sulpiride)
スルトプリド(sultopride)

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薬理作用

解説

静穏作用

攻撃的な実験動物が取り扱いやすくなる。これは辺縁系のDAニューロンの抑制による。患者では妄想や幻覚症状が消える。自発運動の減少やいろいろな刺激に対する反応性が低下する。

条件回避反応の抑制

この作用は、抗精神作用とよい相関を示すが、錐体外路症状をみている。

制吐作用

第4脳室底の化学受容器引き金帯(Chemoreceptor trigger zon、CTZに働き抑制する。CTZの血液脳関門(Blood brain barrier、BBB)が未発達であるため、BBBを越えないdomperidonにも制吐作用がある。

骨格筋の緊張低下作用

大脳基底核に働く。

体温低下作用

視床下部の体温調節中枢に働く。

催眠作用

静穏作用による。

鎮痒作用

抗ヒスタミン作用による。

プロラクチン分泌の亢進

DA作用の抑制による。

自律神経系の抑制

各種神経伝達物質(DA、Norepi、5-HT、Histamine)の作用を抑制する。

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第2世代薬(非定型薬)

薬物

受容体遮断

特徴、副作用など

錐体外路症状や精神的副作用が少ない。共通する副作用として、体重増加、心電図QTc延長、性機能障害がある。

ジベンゾジアゼピン系(Dibenzodiazepines)

クロザピン(clozapine)

D4>5-HT2>D2

意欲賦活作用。agranulocytosis(0.8%)や心筋炎などの副作用。

複素環式化合物(Heterocyclic)系

MARTA(multi-acting-
receptor-targeted-
antipsychotics)

リスペリドン(risperidone)

5-HT2>D2

α1遮断による起立性低血圧。

ペロスピロン(perospirone) 

我国で開発。効果発現が速い。抗精神病作用は強い。

クエチアピン(quetiapine) 

抗コリン作用はほとんどなし。α1遮断による起立性低血圧。血糖値上昇のため、糖尿病患者に禁忌。効果発現が遅い。

オランザピン(olanzapine) 

副作用として血糖値上昇。糖尿病患者に禁忌。

ブロナンセリン(blonanserin)D2>5-HT2陽性および陰性症状に効果がある。

キノリノン系(Quinolinones)

アリピプラゾール(aripiprazole)

シナプス後D2の弱い遮断作用とシナプス前D2(自己受容体)の刺激作用を併せ持つ。

陰性症状にも有効。プロラクチン(prolactin)亢進作用がない。錐体外路症状が少ない。体重増加やQTc延長はない。

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第2世代薬である。D2より5-HT2A受容体に対して 遮断作用が強いため、錐体外路系の副作用が少ないこと、陰性症状の改善作用を持つことなどが特徴である。最近は、ペロスピロン(perospirone)やオランザピン(olanzapine)が非定型薬として認可されている。


話題

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150研究のメタアナリシスにより、第二世代の抗精神薬を、第一世代薬と有効性と副作用について、2万人の患者で比較した。4つの第二世代薬(有効順:clozapine>amisulpride>olanzapine>risperidone)が、第一世代よりも優れていた。他の第二世代薬は、第一世代よりも有効とはいえなかった。また、陰性症状の改善作用も第二世代薬の特徴ではなかった。錐体外路系の副作用は第二世代薬で少なかったが、鎮静作用や体重増加作用などは第二世代薬間でも差異がみられた。第二世代薬は、多くの性質が薬物間で異なっており、均質なクラスとはいえないので、個々の患者に合った治療をする必要がある。 (S.Leucht et al, Lancet, 373, 31,2009、論文をみる)

米国マサチュセッツ総合病院で、5つの精神疾患(autism spectrum disorder, attention deficit-hyperactivity disorder, bipolar disorder(BD), major depressive disorder and schizophrenia)の遺伝子(約3万3千人)のSNPsを調べ、4つのリスク遺伝子(Chr3上のITIH3、Chr12上のCACNA1C(Caチャンネル)、Chr10上のCACNB2(Caチャンネル)とNEURL)を見出した。CACNA1Cは、既報のようにBDとSchizoと強く関連していたが、他の3つの遺伝子は5つの精神疾患すべてと関連していた。これらの結果より、Caチャネル遺伝子活性の違いが、精神疾患の多様な症状を引き起こしている可能性があると示唆された。(J.W.Smoller et al, Lancet, 381, 1371, 2013、論文をみる

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関連サイトの紹介

1、地域精神保健福祉機構 抗精神病薬 薬物療法 統合失調症・妄想性障害・緊張病
2、
日本生物学的精神医学会誌 27(3):158─ 162, 2016 精神疾患のゲノム解析の現状と展望

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