1.呼吸の生理機能
呼吸=ガス交換(O2⇔CO2)であるが、外(肺)呼吸と内呼吸がある。前者は、肺胞でのガス交換とそれにつながる一連の運動である。一方、後者は組織におけるガス交換で、組織におけるエネルギー産生を支えている。従って、両者をつなぐ循環系が非常に重要であり、循環不全はすぐに呼吸不全をもたらす。例えば、心不全による肺うっ血は、呼吸時の肺に由来する異常音(ラッセル音、ラ音)を伴う息苦しさを来す。
呼吸運動は延髄にある呼吸中枢(呼気中枢と吸気中枢があるとされる)により制御されており、意識しなくても呼吸しているが、意識によっても呼吸の速度・深度を変えることが出来る。求心性には血液中のCO2分圧上昇、気管支筋の状態が迷走神経などにより延髄に伝達される。遠心性には迷走神経、横隔神経、肋間神経により運動制御される。
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1988年にReedにより喘息の本態が慢性剥離性好酸球性気管支炎によるという考え方が示され、これに伴ってイギリス(1990)を初めとするヨーロッパで吸入ステロイドを基本にしたガイドラインが作成された。一方アメリカでは、喘息の死亡率が増加していることが問題視されたことをきっかけに吸入ステロイドを中心としたガイドラインをNIHがまとめ(1991)、これに伴って日本でも吸入ステロイドを基本にしながら、わが国の現状に沿ったガイドラインが作られ、吸入ステロイドが普及していった。現在では、吸入ステロイド薬を中心に、ロイコトリエン受容体拮抗薬(Leukotriene receptor antagonist: LTRA)、テオフィリン徐放性製剤、短時間作用型β2選択性刺激薬(Short-acting β2-agonist: SABA)、長時間作用型β2選択性刺激薬(Long-acting β2-agonist: LABA)、長時間作用性抗コリン薬(Long-acting muscarinic antagonist: LAMA)などが使われている(下図参照)。
喘息治療ステップ(喘息予防・管理ガイドライン2015より転載)
分類 | 薬物 | 作用と副作用 |
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アドレナリン作動薬 |
| 肺気管支平滑筋はβ2受容体により弛緩する。 |
| エピネフリン(epinephrine) | 第1世代の薬物である。β受容体に働き、気管支筋を弛緩させる。副作用は、血清K+の減少。 |
テルブタリン(terbutaline) | 第2世代の薬物。短時間作用型β2選択性刺激薬(Short-acting β2-agonist: SABA)。副作用は、血清K+の減少。 | |
プロカテロール(procaterol) | 第3世代の薬物。プロカテロールはSABA、サルメテロールは長時間作用型β2選択性刺激薬(Long-acting β2-agonist: LABA)で、就寝前の内服で夜間の発作に有効。副作用は、血清K+の減少。formoterol は長時間作用型β2刺激薬であるが、salmeterolと比較して親水性が強く、気管支拡張作用発現までの時間は、発作治療に用いられる短時間作用型β2刺激薬と同程度である。 | |
メチルキサンチン誘導体 |
| cAMPホスホジエステラーゼ阻害によるとされていたが、局所では阻害濃度に達しないので、アデノシン受容体への作用などが考えられている。 |
| テオフィリン(theophylline) | 治療有効血中濃度;8〜20μg/ml。薬物動態の個人差が大きく、中毒域 が接近しているので、 TDM(血中濃度のモニター)が必要。 副作用は、悪心、嘔吐、痙攣、精神症状など。マクロライド系抗生物質は CYP3A4阻害により、またニューキノロン系抗生物質はCYP1A2阻害によりテオフィリン(theophyllineの血中濃度を高めるので注意。 |
アミノフィリン(aminophylline) | テオフィリン(theophyllineが2分子とethylenediamine1分子の混合物で水溶性を高めたもの。 | |
糖質コルチコイド |
| 炎症、浮腫の抑制、β受容体の感受性回復作用がある。気管支喘息の第一選択薬で、吸入ステロイド薬として用いる。また、予防維持薬として必須である。副作用として、咽喉頭カンジダ症、嗄声など |
| ベクロメタゾン(beclomethasone) | 吸入ステロイドで、気管支に直接噴霧する。吸収されてすぐに肝臓で分解されるので、全身への副作用が少ない。 |
抗アレルギー薬 |
| 肥満細胞のCa流入から脱顆粒過程を抑制する。発作の予防に有効。 |
| クロモグリク酸ナトリウム(sodium cromoglicate) | 吸入薬として使用。小児アトピー型喘息に。 |
ケトチフェン(ketotifen) | 上記の作用の他、抗histamine作用があり、眠気を伴う。成人アトピー型喘息に。 | |
トラニラスト(tranilast) | 中枢に移行しにくいので、鎮静や眠気が少ない。 | |
抗コリン薬 | チオトロピウム(tiotropium) | 気道のムスカリン受容体阻害薬で、分泌を抑制する。長時間作用性抗コリン薬(Long-acting muscarinic antagonist: LAMA)で、COPDの第一選択薬である。 |
オキシトロピウム(oxitropium) | 短時間作用性抗コリン薬(Short-acting muscarinic antagonist: SAMA) | |
ロイコトリエン受容体拮抗薬 | プランルカスト(pranlukast) | 好酸球のLTC4に対する受容体CysLT1に拮抗することにより、抗炎症作用および気管支収縮抑制作用を発現する。吸入ステロイドと併用される。 |
抗トロンボキサン薬 | セラトロダスト(seratrodast) | TXA2の気管支収縮に拮抗する。 |
Th2サイトカイン阻害薬 | スプラタスト(suplatast) | IgE抗体産生抑制、好酸球浸潤抑制作用があり予防薬である。 |
モノクローナル抗体 | 1.オマリズマブ(omalizumab) 2.デュピルマブ(dupilumab) | 1.IgEと直接結合してアレルギーおよび炎症反応を抑制する。既存治療によりコントロールできない重症の喘息に用いる。副作用は、遅発性アナフィラキシー 2.IL-4受容体αサブユニットに特異的に結合することで、IL-4及びIL-13のシグナル伝達を阻害するヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体。コントロール不良の喘息では、サイトカイン(IL-4、IL-13)が引き起こすType2炎症が気道炎症の主体であり、喘息増悪リスクの増加や呼吸機能の低下の一因とされている。同じサイトカインが関与するとされるアトピー性皮膚炎にも用いられる。 |
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安定期COPDの重症度に応じた管理(治療は薬物療法と非薬物療法を行う。薬物療法では、単剤で不十分な場合はLAMA、LABA併用 (LAMA/LABA配合薬の使用も可)とする。喘息病態の合併が考えられる場合はICSを併用するが、LABA/ICS 配合薬も可。COPD 診断と治療のためのガイドライン2018ダイジェストより転載)
話題
Theophyllineは、気管支喘息において、低濃度で抗炎症作用を持つと言われてきた。Theophyllineは、histone deacetylaseを誘導し、これが炎症関連遺伝子発現を抑制するために、抗炎症作用を示すことが明らかにされた。この抗炎症作用はcorticosteroidと相乗作用をすることも示された。(K.Ito et al, PNAS, 99, 8921, 2002、論文をみる)
血中のYKL-40蛋白は、chitinase3様蛋白で、喘息患者で増加することが知られている。この蛋白質をコードする遺伝子CHI3L1を調べたところ、プロモータ領域で、-131C->G変異がYKL-40蛋白の増加および1秒率(FEV1)の悪化と相関していることを、シカゴ大学のグループが明らかにした。YKL-40レベルは、出生時からCHI3L1遺伝子により規定されており、喘息の優れたバイオマーカーになることが期待される。(C.Ober et al, New Eng J Med, 358, 1682, 2008、論文をみる)
関連サイトの紹介
1、独立行政法人 環境再生保全機構 成人ぜんそくの基礎知識
2、GOLD日本委員会 COPD情報サイト COPDの治療
3、日本呼吸器学会 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
(佐伯、久野)