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高血圧の80-90%が、原因のはっきりしない本態性高血圧である。多因子疾患と考えられている。また、高血圧は、血管の障害以外に、多くの合併症を引き起こす。高血圧の治療は、薬物療法が主流となっている。薬物は長期投与が必要であるので、(1)単独薬でよく効くこと、(2)作用発現が緩徐で、服用回数が少ないこと、(3)副作用が少ないなどが大切である。

我が国のガイドライン(JSH2014)では、降圧目標を、若・中年者や前期高齢者では140/90mmHg未満に、後期高齢者は150/90mmHg未満に、糖尿病や腎障害では130/90mmHg未満に、心筋梗塞後や脳血管障害者では、140/90mmHg未満に設定している。また、家庭血圧の意義を強調し、診察室血圧より家庭血圧を優先する。望ましい1日の食塩摂取量も6グラム未満としている。第一次薬として、β遮断薬が除かれ、利尿薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の4薬が挙げられている。また、薬物治療の進め方については、EBMに基づいたガイドラインが示されている。

JSH2019の素案によると、高血圧の基準と降圧薬の開始基準については従来の140/90mmHg以上とする一方、心筋梗塞や脳卒中を減らすために、降圧目標は75歳未満の患者は原則、130/80mmHg未満に引下げる。130~139/80~89 mmHgの未治療患者には生活習慣改善を強化する。75歳以上の患者の降圧目標も引下げ、140/90mmHg未満などとされている。


血圧調節機構の模式図
血圧は、4つの調節機構により維持されている。すなわち、1)細動脈による末梢抵抗、2)静脈血液量、3)心拍出量、4)循環血液量を調節する腎臓である。高血圧患者では、心拍出量と循環血液量は正常人と大差ないので、血圧の上昇は、血管抵抗の増加と考えられる。血管抵抗は、細動脈の半径の4乗に反比例するので、細動脈の収縮が大きく血圧に影響することが理解できる。これには、交感神経系とrenin-angiotensin-aldosterone系を介する血管収縮が重要である。

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分類

薬物

作用機序など

副作用および禁忌

ACE阻害薬

 

カプトプリル(captopril)
エナラプリル(enalapril)
アラセプリル(alacepril)
リシノプリル(lisinopril)

 

angiotensin Iからangiotensin II への変換酵素を阻害するために、angiotensinIIが減少し、降圧作用がでる。また、ブラジキニン(bradykinin)の分解酵素である kininase IIも阻害するので、bradykinin が増加し、降圧作用がでる。さらに、血管拡張作用を持つプロスタサイクリン(prostacyclines)の産生を増加させる。糸球体内圧の低下、メサンギウム細胞増殖や基質産生の抑制により、慢性腎不全の進行を抑制する。angiotensin II は、血圧調節や血管壁の肥厚や心肥大などに関与している(リモデリングと言う)ので、ACE阻害薬は、これらの反応を阻止し、臓器保護作用がある。

副作用:血管神経性浮腫、汎血球減少、薬疹、空咳(頻度5-10%、bradykininの増加による)、腎機能障害。禁忌:妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄

Angiotensin II
受容体拮抗薬
(ARB)

ロサルタン(losartan)
バルサルタン(valsartan)
オルメサルタン(olmesartan)
カンデサルタン(candesartan)
テルミサルタン(telmisartan)
イルベサルタン(irbesartan)
アジルサルタン(azilsartan)

血管平滑筋のAT1受容体を抑制し、降圧作用を示す。臓器保護作用がある。ARBはinverse agonist活性を持ち、その強さが臓器保護作用などと関係しているようである。

副作用:アナフィラキシー様症状、血管浮腫、肝炎。禁忌:妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄

直接的レニン阻害薬アリスキレン(aliskiren)ACE阻害薬やARBよりも上流で、アンジオテンシンⅠの生成を抑制する。半減期は約35時間と長く、bioavailabilityは2-3%と低い。副作用:頭痛、高尿酸血症、下痢など。重大な副作用として血管浮腫、高カリウム血症

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種類

積極的な適応

禁忌

Ca拮抗薬

高齢者、狭心症、脳血管疾患後(脳血管も拡張させるので脳血流を低下させない)、糖尿病

房室ブロック(2度以上、diltiazem)

ACE阻害薬

糖尿病、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、軽度の腎障害、脳血管疾患後、腎障害、高齢者

妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄

AII受容体拮抗薬(ARB)

糖尿病、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、軽度の腎障害、脳血管疾患後、腎障害、高齢者

妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄

利尿薬

脳血管疾患後、高齢者、心不全、腎不全(ループ利尿薬)

痛風、高尿酸血症

β遮断薬JSH2014では第一選択薬から外され「主要降圧薬」となった

心筋梗塞後、狭心症、頻脈、心不全

喘息、房室ブロック(2度以上)

α遮断薬:第一次選択薬ではない

高脂血症、前立腺肥大、

起立性低血圧

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米国において、1994年から2002年にわたり、55歳以上で、収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上の約4万2千人の高血圧患者へ、3種類の薬物を4-8年間投与し、その効果を比較した。用いた薬物は、利尿薬のchlorthalidone、Ca拮抗薬のamlodipine、ACE阻害薬のlisinoprilである。一次評価項目である致死性冠動脈疾患あるいは非致死性心筋梗塞の発症抑制効果には、3薬間で有意差はみられなかった。しかし、二次評価項目の疾患については、chlorthalidoneと比較して、脳卒中および全心血管疾患の発症率で、lisinoprilが10-19%高く、心不全発症率では、amlodipineが38%高かった。従って、安価なチアジド系利尿薬が、高血圧治療の第一選択薬として最も優れていると結論された。 (The ALLHAT Officers and Coordinators for the ALLHAT Collaborative Research Group, JAMA, 288, 2981-3044, 2002、論文をみる)Angiotensin II受容体拮抗薬(ARB)は、臓器保護作用があると考えられるので、Ca拮抗薬よりも優れているとの仮説で、VALUE(Valsartan Antihypertensive Long-term Use Evaluation)が行われた。50歳以上の高血圧患者約15,000人について、約4年間、amlodipineとvalsartanを投与して、心疾患と脳卒中の発生率を比較したところ、両者に差はなかった。むしろ血圧のコントロールが重要であると報告されている。(Lancet, 363, 2022-2031, 2004、論文をみる)

正常血圧の冠動脈疾患者約2000人にamlodipineあるいはenalaprilを2年間投与して、心血管系イベント抑制効果が比較された。その結果、冠血管疾患発生の抑制および冠動脈硬化病変の抑制は、enalaprilに比べて、amlodipineが有意に優れていることが報告された。これは、1日1回投与の場合、enalaprilに比べて、amlodipineの方が作用時間が長いためと考えられる。 (Nissen, S.E. et al, JAMA, 292, 2217, 2004、論文をみる)
スエーデンのグループは、βブロッカーについての多くの論文データをメタ解析し、βブロッカーは、他の降圧薬に比べて、脳卒中の予防効果が16%低いことを明らかにした。そしてβブロッカーを降圧薬の第一選択薬にすべきではないとしている。 (Lindholm.L.H. et al, Lancet, 366, 1545, 2005、論文をみる)

Trinity College Dublinで、4種類の降圧剤を1/4づつ併用する方が、単独投与よりも降圧作用が強いかどうかの試験が行われた。110人の高血圧患者(平均血圧:160mmHg)を5グループに分け、amlodipine(AML, 5mg)、atenolol(ATE, 50mg)、bendroflumethiazide(BEN, 2.5mg)、captopril(CAP, 50mg)と、上記4種類の各薬物の1/4量を含んだ併用カプセルを投与し、4週間後に血圧を測定した。平均血圧は、併用剤では19mmHg、AMLでは10mmHg、ATEでは10mmHg、BENでは6mmHg、CAPでは11mmHg 降下した。低濃度の降圧薬を併用する方が、単独投与より強い効果があることが示された。 (A.Mahmud et al, Hypertension, 49, 272, 2007、論文をみる)

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1、国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス 高血圧治療の最新事情
2、日本心臓財団 高血圧治療ガイドライン・エッセンス

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