抗てんかん薬(Anticonvulsants)

てんかんは、大脳ニューロンの過剰な電気的興奮の結果、繰り返し、ほぼ同一の症状を持って出現する脳起源の発作(seizure)を主徴とする慢性疾患である。てんかん発作により、意識障害、痙攣、自律神経症状、神経症状、精神症状などが一過性に生じる。脳波に異常が出る。人口の約1%に見られる。発作型によって第一選択薬が異なるので、発作型の診断が重要である。


1、てんかんの分類

分類

発作の型

特徴

第1選択薬

第2選択薬

部分発作

単純部分発作

意識消失なし。部分痙攣。ジャクソンてんかん(Jacksonian Epilepsy)

カルバマゼピン(carbamazepine)、ラモトリギン(lamotrigine)、レベチラセタム(levetiracetam)次いでトピラマート(topiramate)、ゾニサミド(zonisamide)

ラコサミド(lacosamide)、フェノバルビタール(phenobarbital)、プリミドン(primidone)、ガバペンチン(gabapentin)、フェニトイン(phenytoin)など

複雑部分発作

意識消失あり。自動症。精神運動発作

全般発作

欠神発作

小発作とも言われる。突然の短い意識消失

バルプロ酸(valproic acid)、エトスクシミド(ethosuximide)

ラモトリギン(lamotrigine)

強直-間代発作

大発作とも言われる。

バルプロ酸(valproic acid)ただし、妊娠可能年齢の女性では他の薬物を優先する。

ゾニサミド(zonisamide)、フェノバルビタール(phenobarbital)、プリミドン(primidone)、フェニトイン(phenytoin)、ラモトリギン(lamotrigine)、レベチラセタム(levetiracetam)、トピラマート(topiramate)

ミオクロニー発作

短い時間の攣縮性けいれん

クロナゼパム(clonazepam)、レベチラセタム(levetiracetam)、トピラマート(topiramate)


               

                各種てんかんの脳波の一例

2、てんかんの機序

てんかんは、大半がイオンチャネルの異常で生じるイオンチャネル病である。
動物モデルがある。

1、遺伝性動物
2、アルミクリームを大脳皮質の上に置く。
3、Kindling(燃え上がり):扁桃体(amygdala)に弱い電気刺激を、1日1回与えると、2週間くらいで全身痙攣がおこる。
4、電気ショックやペンチレンテトラゾール(pentylenetetrazole)で全身痙攣がおこる。


3、薬物と作用機作

焦点における異常放電を抑えたり、異常放電の伝搬を抑える。抗てんかん薬は治療域が狭く、治療域と中毒域が近いために、TDM (therapeutic drug monitoring)が必要なものが多い。他の抗てんかん薬で十分な効果が認められない場合に併用する新薬(新世代薬)が登場している。

治療薬

適応

作用機作

副作用

フェニトイン(phenytoin) (ジフェニルヒダントイン (diphenylhydantoin))

欠神発作以外のてんかんに有効、鎮静作用がないのが特徴

電位依存性Naチャネル抑制

運動失調、構語障害、催奇性歯肉増殖、多毛、肝障害

カルバマゼピン(carbamazepine)

大発作と精神運動発作に有効

電位依存性Naチャネル抑制

身体動揺感、複視、

エトスクシミド(ethosuximide)

欠神発作に有効。

T-型電位依存性 Caチャネル抑制

倦怠感、嗜眠

バルプロ酸(valproic acid)

すべてのてんかんに有効
mood stabilizer(気分安定薬)

電位依存性Naチャネル抑制、
GABA transaminase抑制
T-型電位依存性 Caチャネル抑制
ヒストン脱アセチル化酵素阻害

食欲低下、肝障害、発疹、催奇性、まれに劇症肝炎

ジアゼパム(diazepam)、クロナゼパム(clonazepam)

てんかん重積発作に有効

GABA-A受容体活性化

眠気、脱力

フェノバルビタール(phenobarbital)

大発作に有効。鎮静作用あり

GABA-A受容体活性化

皮膚粘膜眼症候群、眠気、依存性

プリミドン(primidone)体内で代謝されフェノバルビタールに変化する。GABA-A受容体活性化皮膚粘膜眼症候群、眠気、依存性
ゾニサミド(zonisamide)広い発作型スペクトラムを持ち、全般および部分てんかんに有効
抗Parkinson病薬のlevodopaの補助薬
発作の伝播過程やてんかん原性焦点の抑制。半減期(63時間)は長い。眠気、消化器症状、皮膚障害



クロバザム(clobazam)他の抗てんかん薬で十分な効果が認められない場合の併用薬として用いる。GABA-A受容体活性(benzo-diazepine受容体に作用)眠気、ふらつき、目眩
ガバペンチン(gabapentin)他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法として用いる。電位依存性Caチャネルを阻害、GABA誘導体であるがGABA受容体は作用しない。眠気、ふらつき、目眩、頭痛。重篤な副作用が少ない。糖尿病やヘルペスによる疼痛を抑制する。
トピラマート(topiramate)他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法として用いる。電位依存性Naチャネル抑制、L-型電位依存性 Caチャネル抑制、AMPA/カイニン酸受容体抑制、GABA-A受容体活性化眠気、ふらつき、めまい、感覚減退、体重減少
ラモトリギン(lamotrigine)単剤療法として、てんかん患者での、部分発作(二次性全般化発作を含む)、強直間代発作、定型欠神発作に対して用いる。また、他の抗てんかん薬との併用療法にも用いる。双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制にも使用される。電位依存性Naチャネル抑制、
伝達物質のglutamateの遊離を抑制
眠気、めまい、皮膚障害
レベチラセタム(levetiracetam)部分発作(二次性全般化発作を含む)に使用。他の抗てんかん薬で効果不十分なてんかん患者の強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法。市販名はイーケプラ®、現在最もよく使われている抗てんかん薬の1つ。シナプス小胞蛋白(SV2A)と結合し、発作を抑制肝機能障害
ラコサミド(lacosamide)てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)
、他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法
電位依存性Naチャネルは急速な不活性化と緩徐な不活性化の2種類によって制御されている。カルバマゼピン、ラモトリギン、トピラマートなどは、急速な不活性化からの回復を遅らせるが、ラコサミドは緩徐な不活性化を選択的に促進させる。ニューロンの興奮性を低下させる働きは緩徐な不活性化の方が強いと考えられている。浮動性めまい、頭痛、傾眠



GABA作動性シナプスの模式図
GABAは、GAD(glutamic acid decarboxylase)によりグルタミン酸(glutamate)より合成される。シナプス小胞に結合したGABAは、刺激により遊離される。遊離したGABAは、GABA-A受容体に結合し、Clイオンチャネルを開口する。Clイオンがポストシナプス内に流入し、過分極を引き起こす。一方、遊離したGABAは、グリア細胞に取り込まれ、ミトコンドリアの酵素であるGABA-T(GABA transaminase)により分解され、GABAシャントおよびTCAサイクルを経て再利用される。




フェニトイン(phenytoin)


カルバマゼピン(carbamazepine)


エトスクシミド(ethosuximide)


話題

人やマウスにおいて、てんかんの原因遺伝子として、これまでイオンチャネル(Naチャネル、Caチャネル、Kチャネルなど)の異常が報告されている。全般発作と大きな音に反応して痙攣を起こすマウス(Frings mice)から、イオンチャネルでない新しい遺伝子MASS1(monogenic audiogenic seizure-susceptible)がクローニングされた。てんかんの新しいメカニズムの解明が期待される。(S. L. Skradski et al, Neuron, 31, 537, 2001、論文をみる)

「新世代薬」とよばれる新しい抗てんかん薬が多数発売されたことや海外でのガイドラインの改訂を受けて、日本神経学会は2018年に「てんかん診療ガイドライン」を8年ぶりに改訂した(「てんかん診療ガイドライン2018」をみる)。


関連サイトの紹介

1、愛知県青い鳥医療療育センター てんかんの治療 抗てんかん薬の副作用
2、
大塚・ucb 「てんかん info抗てんかん薬
3、
てんかん情報センター 発作の薬物治療

(三木、久野)