「薬理学電子教科書」の編集管理者の引継ぎについて
久野高義
三木直正先生が「薬理学電子教科書」をネットにアップされたのは2000年1月だそうですが、私はすぐにはその存在に気が付きませんでした。当時、神戸大学医学部で薬理学の講義を担当していた私は、教科書選びに悩んでいました。講義の一部を担当されていた神戸大学バイオシグナル研究センターの向井秀幸先生が、この「薬理学電子教科書」を私に推薦したのが学生講義で使い始めたたきっかけでした。このように、最初私は単なるユーザーでしたが、教科書のサイトに「誤りのご指摘やご意見がありましたら、三木までe-mailをお願い致します。」と書かれていたので、遠慮なくメールでいろいろと指摘しました。三木先生は、指摘の度に該当箇所を丁寧に修正・追加されました。電子教科書を講義に使いながら、気づいたことをどんどん指摘していたところ、いつ頃か忘れましたが、三木先生が私の名前を執筆者に加えてしまわれたのです。要するにしつこく指摘をしただけの「執筆者」でした。
その後私は、2017年に任期を終えて神戸大学の教授を退職し、薬理学教育からも電子教科書からも遠ざかっていました。ところが、私とほぼ同時期に神戸大学を退職した前解剖学教授の寺島俊雄先生が突然、2018年の年末(12月24日)に、電子教科書の挿絵として書かれている脳の溝(sulcus)がおかしいとのメールを送ってこられました。図を書かれた三木先生に直接メールするように彼に伝えたところ、後日寺島先生から、三木先生が「あの図は単なるイメージ図です」という返事と共に「そろそろ電子教科書を閉じる」と書かれていたとの連絡がありました。要するに、寺島先生の脳の溝へのこだわりがきっかけで、私は、三木先生が近い将来、電子教科書を閉じようとされていることを知りました。
それからは、「あの電子教科書が閉じられるのは避けたい」という思いが消せませんでした。寺島先生からの励ましや向井先生からの協力の申し出がありましたので、思い切って私から三木先生に連絡し、電子教科書の引継ぎをお願いしたところ、思いがけずご快諾をいただきました。それから約1ヶ月、サーバーの引っ越しと教科書の改訂作業を三木先生のサポートを得ながら向井先生と2人でやってきました。まだまだ、不完全な内容だとは思いますが、この段階で公開し、読者の皆様からのコメントを得ながら、新しい執筆者と共により良い電子教科書を作っていきたいと考えています。
教科書の土台となるシステムとしてはAtlassian社が開発する企業向け情報共有ツールである「Confluence (コンフルエンス)」を使うことにしました。このツールの使用によって、読者は教科書に直接コメントを書き込むことができ、執筆者は編集者を介さずにワープロのような感覚で記事を修正できます。新しい「薬理学電子教科書」では、できるだけ三木先生の作成時の原則を守るようにしましたが、「薬理学の教科書を、一般の人を対象とした「薬の本」にしないために、商品名は使わず、しかも薬物名をすべて英語で記述する事にした。」という原則は少し変えて、できるだけ薬理学の講義で使われる教科書として使いやすいように、商品名は使わないものの、薬物名をカタカナと英語の併記にしました。
常にアップデートされる「薬理学電子教科書」を目指しています。建設的なコメントやご指摘をお待ちしています。(2019/01/22)