心臓は 各部の心筋細胞が順序正しく電気的に興奮することで、その収縮-弛緩がリズミカルに制御されている。正常な状態では 上大静脈開口部近くの右房にある洞房結節において、自動的に活動電位が誘発される。これが洞房結節のペースメーカー活動である。洞傍結節で発生した電気的興奮は、心臓内に伝導する。この心臓内への伝導で重要なのは、田原 淳により”特殊伝導系”と名付けられたシステムである。
特殊伝導系は洞房結節-心房内伝導路-房室結節-ヒス束-左・右脚部-末梢プルキニエ線維から構成されている。そして 心室筋では興奮(=活動電位)は心内膜側からはじまり心外膜側へと伝播していく。活動電位の間に起こるL型Caチャネルを介した細胞外Caの細胞内流入がトリガーとなり、心筋の収縮が起こる。心筋細胞の活動電位は長い(ヒトで200-400 ms)プラトー相が特徴で、単収縮を起こす。活動電位が終息すると、心筋は弛緩する。心房筋、ヒス・プルキニエ線維、心室筋の活動電位の0相はNa電流により生じるが、洞房結節・房室結節の活動電位の0相はCa電流により生じる。このため、房室結節の伝導は心房・心室内の伝導よりずっと遅く、心房収縮と心室収縮の間に適当な”遅れ”をつくる。このために拡張末期に心房が収縮し、心室内に血液が十分に充満してから心室の収縮が起こる。
つまり、心臓は洞房結節の歩調取りにより協調的に支配され、ヒトでは1分間に60-100回の規則正しい収縮を行っているが、これがいかようにでも乱れた状態が不整脈である。
不整脈は大別すると、脈が減少する徐脈性不整脈と、興奮数が増加する頻脈性不整脈に分類される。これらの不整脈は、単に動悸・胸内苦悶を生じるだけではなく、一過性の意識障害(Stokes-Adams症候群)・脳血栓・突然死を生じることがある。特に、徐脈性不整脈では洞不全症候群や房室ブロックが、頻脈性不整脈では心房細動や心室細動が問題となる。現在、徐脈性不整脈は薬物治療ではなく人工ペースメーカーによる治療が主である。頻脈性不整脈では、下記に示すような発生抑制または停止させる種々の薬物があるが、近年は不整脈が強い自覚症状を呈する場合や致死性である場合以外には、薬物による副作用(特に催不整脈性)を回避して、積極的には薬物療法を行わない傾向にある。また頻繁に心室細動を生じる患者には、携帯型除細動器を体内に埋め込む手技が取られることが多い。また心房内血栓を形成し脳梗塞を併発しやすい慢性心房細動では、抗凝固・抗血小板療法が行われる。Adams症候群)・脳血栓・突然死を生じることがある。特に、徐脈性不整脈では洞不全症候群や房室ブロックが、頻脈性不整脈では心房細動や心室細動が問題となる。現在、徐脈性不整脈は薬物治療ではなく人工ペースメーカーによる治療が主である。頻脈性不整脈では、下記に示すような発生抑制または停止させる種々の薬物があるが、近年は不整脈が強い自覚症状を呈する場合や致死性である場合以外には、薬物による副作用(特に催不整脈性)を回避して、積極的には薬物療法を行わない傾向にある。また頻繁に心室細動を生じる患者には、携帯型除細動器を体内に埋め込む手技が取られることが多い。また心房内血栓を形成し脳梗塞を併発しやすい慢性心房細動では、抗凝固・抗血小板療法と非薬物療法であるカテーテルアブレーションが行われる。
1、不整脈の分類と治療の概要
各不整脈 | 原因 | 治療薬
| 非薬物療法(ペ:ペースメーカー植え込み;ウ:植え込み型除細動器;カ:カテーテルアブレーション;チ:直流通電;シ:食道ペーシング) | コメント |
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洞性不整脈 洞頻脈 洞不全症候群、洞徐脈、洞停止、洞房ブロック | 生理的現象 交感神経緊張 加齢に伴う虚血・繊維化など |
アトロピン・イソプロテレノール(緊急時のみ) |
ペ(有症状例のみ) | 原則薬物療法せず 原則薬物療法せず |
心房期外収縮 | 自動能亢進、撃発活動 | フレカイニド、ジソピラミド、シベンゾリン、プロプラノロール、ビソプロロール |
| 原則薬物療法せず |
発作性上室性頻拍 | リエントリ・異所性自動能 | ATP、ベラパミル、シベンゾリン、プロプラノロール、ジソピラミド、フレカイニド | カ |
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WPW・LGL症候群 | 副伝導動路を介するリエントリ | 同上 | カ |
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心房粗動 | 三尖弁輪を旋回するリエントリ | ニフェカラント、フレカイニド | シ、カ |
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心房細動 | リエントリ、撃発活動 | 細動停止:ピルジカイニド、フレカイニド、ジソピラミド 心室拍動数制御:ベラパミル、ジゴキシン、アテノロール 血栓防止:ワルファリン(PT-INR = 2.0~3.0)、ダビガトラン、リバーロキサバン、エドキサバン 非薬物治療:再発を繰り返す症候性の心房細動に対しては、第一選択としてカテーテルアブレーションが行われている。 | カ |
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心室期外収縮 | 自動能亢進、撃発活動 | フレカイニド、ジソピラミド、メキシレチン、プロプラノロール、ビソプロロール |
| 原則薬物療法せず |
心室頻拍 | リエントリ、撃発活動 | リドカイン、K+投与(ジギタリス誘発性の場合)、硫酸マグネシウム(torsades de pointesの場合) | カ、ウ |
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心室細動 | リエントリ、撃発活動 | 炭酸水素ナトリウム(アチドーシス補正の為)、リドカイン、プロカインアミド、ニフェカラント | チ、ウ |
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実際の外来診療においては、以下に紹介する「ガイドライン外来診療・不整脈」に書かれているように、不整脈を持つ患者にβ遮断薬以外の抗不整脈薬を投与するケースは少ない。
●心電図記録が必須であるが、通常の心電図では捉えられないことが多く、ホルター心電図や携帯心電計などのツールが必要となる。
●不整脈に特異的な症状はないが、突然始まり突然終わる動悸症状は発作性上室頻拍が、また脈の結滞を訴える場合は期外収縮が疑われる。
●基礎心疾患を伴っていることも多く、心拡大や心雑音を認めた場合は心臓超音波検査が必要である。
治 療
●目標は不整脈自体の消失ではなく、生命予後、QOLの改善である。
●期外収縮は日常頻繁にみられる不整脈で、健常人にも多く認められ、生命予後には影響しないため通常治療の必要はない。
●発作性上室頻拍はカテーテルアブレーションのよい適応である。
●CHADS2スコア1点以上の症例は抗凝固療法が推奨されており、症状がなくても抗凝固薬内服が重要であることを患者に認識させる。
●発作性心房細動ではおもにI群抗不整脈薬を用いた洞調律維持を、持続性心房細動ではβ遮断薬を用いた心拍数調節を行う。
●虚血性心疾患や心筋症などの基礎心疾患を有する症例ではI群抗不整脈薬は控えるべきであり、β遮断薬を中心とした投薬を行う。
●洞不全症候群(SSS)は症状がなければ通常ペースメーカーの植込みは必要ない。
(清水 渉、淀川 顕司 日経メディカル 2017/1/20)
6、話題
米国において、心血管疾患のリスクを1つ以上持つ65歳以上の持続性心房細動患者4060例に、抗不整脈を平均3.5年間投与して、一次評価項目の5年後の総死亡率を調べた。薬物を、rate-control治療(beta-blocker, Ca-blockers[diltiazem, verapamil], digoxin)とrhythm-control治療(amiodarone, disopyramide, flecainide, moricizine, procainamide, propafenone, quinidine, sotalol)に分け、warfarinとの併用で投与した。その結果、総死亡率では、両者に有意な差はなかった。しかし、9項目の層別解析(心房細動発生のタイプ、高血圧の有無、左室駆出率、高血圧など)では、ほとんどの項目で、rate-control治療の方が、死亡リスク抑制効果が見られた。Rate-control治療が、薬物の副作用などが少ない点で優れていると結論された。(注)Rate-control:心拍数の正常化、Rhythm-control:洞調律化(New England J. Med., 347, 1825-183、2002、論文をみる)
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