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1、糖尿病(Diabetes mellitus)

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1型糖尿病(Type 1) 

膵β細胞破壊に基づく糖尿病で、自己免疫が発症に関与。抗グルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)抗体は、自己免疫性1型糖尿病の診断に必須の膵島関連自己抗体である。生命維持のためにインスリン注射が不可欠である。糖尿病全体の約5%が1型糖尿病と考えられている。1型糖尿病の発症は小児~思春期に多いと考えられていたが、実際には30歳以降の発症も多く、全体の半数に上る。

2型糖尿病(Type 2)

膵β細胞からのインスリン分泌低下と、肝臓、筋肉や脂肪組織におけるインスリン抵抗性による。加齢変化や遺伝素因(体質)に環境要因(生活習慣)が重なることによって発症する。過食による肥満や運動不足などの生活習慣の乱れによってインスリン抵抗性が増大し、相対的にインスリン作用が低下することによって高血糖状態が持続すると、インスリン抵抗性を助長し、これがインスリン分泌を低下させるという悪循環になる。

その他の特定機序、疾患に
よる糖尿病

遺伝子異常が解明されたもの。他の疾患や状態に伴うもの。

妊娠糖尿病

妊娠中に発病、あるいは発見された耐糖異常

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種類

薬物

作用機序や副作用

スルホニル尿素(Sulfonylureas)

第1世代:
トルブタミド(tolbutamide)
アセトヘキサミド(acetohexamide)
第2世代:
グリベンクラミド(glibenclamide)
グリクラジド(gliclazide)
第3世代:
グリメピリド(glimepiride)

膵β細胞を刺激し、insulin分泌を促進し、血糖値を下げる。図のように、ATP-sensitive K+ channelのSUR1 に結合し、Kチャネルを阻害し、結果として細胞の脱分極から、電位依存性Ca++ channelを開き、細胞内Ca++を増加させ、insulin分泌を引き起こす。glibenclamideは最も強力なSU剤。12~24時間持続的に効くので、夜間低血糖がおこる。最も低血糖をおこし易いグループ。また、β細胞の保護効果はなく、むしろ連用により疲弊させるといわれている。食欲が亢進し肥満しやすい。副作用は、低血糖、血液障害、肝障害、アレルギー反応などである。 

ビグアナイド(Biguanides)

メトホルミン(metformin)
ブホルミン(buformin)

腎障害などの例外を除き、2型糖尿病の第一選択薬である。嫌気性解糖系を促進させ、glucoseを乳酸に分解し、肝臓からの糖放出を抑制する。ミトコンドリアの呼吸鎖 Complex Ⅰを阻害する。肥満型患者には最も推奨される薬物。夜間低血糖や肥満をおこさない。大腸がんの発生を抑制するともいわれている。副作用は、乳酸アチドーシス。おこせば、致死率は50%に近い。高齢者や腎機能の悪い患者では少量に留め、造影剤検査(腎機能障害をおこし易い)時には投与を中止する。ビタミンB12 欠病に注意が必要。Ⅰを阻害する。肥満型患者には最も推奨される薬物。夜間低血糖や肥満をおこさない。大腸がんの発生を抑制するともいわれている。稀であるが、重篤な副作用として乳酸アシドーシスがある。ヨード造影剤の投与により一過性に腎機能が低下した場合、ビグアナイド系糖尿病薬の腎排泄が減少し、乳酸の血中濃度が上昇することで、乳酸アシドーシスを起こす危険性があるとされている。高齢者や腎機能の悪い患者では投与に注意する。長期投与は、ビタミンB12欠乏症のリスクを高める。

α-グルコシダーゼ阻害剤α-glucosidase inhibitors、α-GI)

アカルボース(acarbose)
ボグリボース(voglibose)
ミグリトール(miglitol)

消化管上皮で、デンプン、マルトースなどをα-glucosidaseで分解し単糖にして、吸収する。この酵素を阻害することにより、糖の吸収を遅らせる。軽症の2型糖尿病に用いる。糖が吸収されずに大腸まで行くので、ガスがたまりやすい。肉食が主な場合は効きにくい副作用は、消化器症状、アレルギー反応がある。劇症肝炎にも注意が必要。

チアゾリジン系糖尿病薬(Thiazolidinediones)

ピオグリタゾン(pioglitazone)

インスリン抵抗性改善薬と呼ばれ、peroxisome proliferator-activated receptorγ(PPARγ)と特異的に結合する。脂肪細胞の分化を促進したり、GLUT4やlipoprotein lipaseなどの発現を増大させたり、TNF-α産生を減少させることにより、インスリン抵抗性を改善する。副作用として、肝障害、浮腫、体重増加がある。膀胱癌のリスクが高まる。

フェニルアラニン(Phenylalanine)誘導体

ナテグリニド(nateglinide)

速効型インスリン分泌促進薬で、インスリン分泌パターン改善薬とも呼ばれる。作用点はSulfonylureasと同じである。夜間低血糖などはおこしにくいが、1日に3回服用する必要があり、患者のコンプライアンスが悪い場合には使いにくい。2型糖尿病の食後血糖の改善に用いる。

インクレチン(Incretin) 関連薬

DPP-4阻害薬

シタグリプチン(sitagliptin)
ビルダグリプチン(vildagliptin)
アログリプチン(alogliptin)
リナグリプチン(linagliptin)
トレラグリプチン(trelagliptin)

incretinは腸管から分泌され、膵臓に作用してinsulinの分泌を促進する。dipeptidyl peptidase 4 (DPP-4)によりincretinは急速に分解される。この酵素を阻害することにより、insulinの作用を強める。低血糖を起こしにくく、食事の影響も受けないので、1日1回いつでも服用ができる利点がある。低血糖のリスクが少ないので高齢者に使いやすく、肥満もおこさない。SU剤との併用では低血糖がおこるので注意。linagliptinは胆汁排泄型。trelagliptinは週1回の投与で有効(半減期38-54hr、作用持続168hr)。

GLP-1受容体作動薬

リラグルチド(liraglutide)
エキセナチド(exenatide)
リキシセナチド(lixisenatide)
デュラグルチド(dulaglutide)

インスリン産生を刺激するホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の半減期は数分である。DPP-4で分解されないGLP-1受容体作動薬である。β細胞上のGLP-1受容体に結合し、食事による血糖値の上昇に応じてインスリンの分泌を促すと同時に、血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌を抑制する。皮下注射をする。重大な低血糖はみられない。中枢に働き、体重減少作用がある。リラグルチドと時効型インスリンの配合注射液が2019年9月に承認された。米国では2019年10月、経口GLP-1受容体作動薬(経口セマグルチド、semaglutide)が承認された。
SGLT2阻害薬

イプラグリフロジン(ipragliflozin)
ダパグリフロジン(dapagliflozin) 
ルセオグリフロジン(luseogliflozin)
トホグリフロジン(tofogliflozin)

SGLT2阻害薬は、SGLT2(Sodium glucose co-transporter 2)を選択的に阻害することにより、近位尿細管でのブドウ糖の再取り込みを抑制し、糖の尿中への排泄を促進することにより、血糖値を低下させる(図)。1日1回の投与で、優れたHbA1c低下作用を示す。主な副作用は、頻尿、脱水、低血糖、尿路感染症、全身性皮疹、体重減少など。

ダパグリフロジンは、慢性腎臓病患者において、2型糖尿病合併の有無に関わらず、腎不全への移行抑制、心血管イベントおよび全死亡に対するの有効性が示され、日本でも保険適用が承認された。

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