神経筋疾患治療薬・筋弛緩薬(Drugs for neuromuscular disorders/Skeletal muscle relaxants)
1、神経筋接合部の模式図
神経筋接合部において、運動神経のシナプス終末に信号が伝わると、AChが遊離される。遊離されたAChは、骨格筋の表面(終板)に存在するニコチン性Ach受容体に結合すると、Na+などの陽イオンの流入が起こり、脱分極および活動電位が生じ、これがT管に伝わる。T管のL型Caチャネルが活性化化されると、筋小胞体のリアノジン(ryanodine)受容体からCa++を一瞬に遊離させ、筋収縮が生じる。この現象を興奮収縮連関(excitation- contraction coupling)という。 |
骨格筋の興奮収縮連関 | 心筋の興奮収縮連関 |
2、重症筋無力症(Myasthenia Gravis)
重症筋無力症は、神経筋接合部のシナプス後膜上の分子に対する自己免疫疾患で、筋力低下を主症状とする。胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺異常が合併する。自己免疫の標的分子はニコチン性アセチルコリン受容体(AChR)が85%、アセチルコリン受容体の集合に重要な働きをする筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(マスク、MuSK)が5-10%とされている。臨床症状は骨格筋の筋力低下で、運動の反復により筋力が低下する(易疲労性)、夕方に症状が増悪する(日内変動)などを特徴とする。主な症状は、眼瞼下垂、複視などの眼症状、四肢・頸筋の筋力低下、構音障害、嚥下障害で、重症例では呼吸障害を来す。以下の図は、重症筋無力症情報サイトからの転載。
1)重症筋無力症の診断
診断には、眼瞼下垂などの主症状とAChR抗体あるいはMuSK抗体の存在とともに、神経筋接合部障害を示す生理学的所見があることが重要。その検査の1つに、エドロホニウム (edrophonium、テンシロン®) 試験がある。エドロホニウムは、速効性の可逆性コリンエステラーゼ阻害剤の一つで、神経筋接合部でアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を競合的に阻害し、神経伝達物質のアセチルコリンの分解を防ぐ。静脈注射して、眼や全身の症状が改善されるかどうかをみるのがエドロホニウム試験である。以下の図は、重症筋無力症情報サイトからの転載。
2)重症筋無力症の治療
発症年齢、眼筋型、全身型、重症度、自己抗体検査結果、胸腺画像異常の有無などにより治療法が選択される。70%に胸腺腫,胸腺過形成がみられ、抗AChR抗体陽性で全身型および眼筋型で胸腺腫のある患者は、早期に摘除術を行う。抗MuSK抗体陽性患者への胸腺摘除術は推奨されていない。血液浄化療法や免疫グロブリン療法による即効性の短期的病態改善治療などと組み合わせて、以下のような内服薬を用いた対症薬物治療や長期的病態改善治療が行われる。
コリンエステラーゼ阻害薬(Cholinesterase inhibitors)
アセチルコリンの分解酵素を阻害しアセチルコリンの作用を増強することで、重症筋無力症における目や口、全身の筋力低下などを改善する。即効性で、筋力を改善させる力も強いが、その作用は一時的。ピリドスチグミン (pyridostigmine) 、ジスチグミン(distigmine)、アンベノニウム(ambenonium)、ネオスチグミン(neostigmine)などの薬物が用いられる。副作用としては、全身でアセチルコリンが増加することによる消化器症状
(下痢、腹痛、吐き気、唾液分泌過多)や骨格筋症状(ピクピクとひきつるような筋肉の収縮)などがあらわれる場合がある。これらの副作用がおこる状態をコリン作動性クリーゼと呼ぶ場合がある。
ステロイド性抗炎症薬(Steroidal anti-inflammatory drugs)
アセチルコリン受容体に対する抗体の産生を抑え、神経から筋肉への指令伝達を改善し、筋力を回復する。 長期間の服薬が一般的。プレドニゾロン(prednisolone)、ベタメタゾン(betamethasone)などが内服薬として用いられる。十分な治療効果が得られるが、副作用に注意する必要がある。副作用は、満月様顔貌)、体重増加、消化性潰瘍、感染症、骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、高脂血症、白内障、緑内障など(詳細は、解熱鎮痛薬・抗炎症薬を参照)。
ステロイドと同様に、異常な免疫を抑制することにより筋無力症状を回復する。 ステロイド薬に併用することで早期に寛解導入が可能となり、ステロイド薬の減量や副作用軽減が期待できる。シクロスポリンA(cyclosporin A)やタクロリムス(tacrolimus)などのカルシニューリン阻害薬が用いられる(詳細は免疫系に作用する薬物を参照)。
エクリズマブ(Eculizumab)は、ヒト化モノクローナル抗体で、終末補体(C5開裂)阻害薬である。難治性の全身型重症筋無力症患者に対し、自己抗体により補体が活性化して神経筋接合部が攻撃されることを抑制する目的で使用される。髄膜炎菌という細菌感染のリスクが高まるため、治療前に髄膜炎菌ワクチンを接種する。
3、神経筋接合部遮断薬(筋弛緩薬)
競合的筋弛緩薬と脱分極性筋弛緩薬に分類される。
競合的筋弛緩薬は、ニコチン性ACh受容体に対して、AChと競合することにより、筋収縮を抑制する。テタニック刺激やcholinesterase阻害薬で弛緩作用が拮抗される。 |
脱分極性筋弛緩薬は、ニコチン性Ach受容体に結合し脱分極(一過性の筋攣縮)を引き起こすが、AChに比べて分解が遅いので、脱分極が2-3分間持続し、Naチャネルが不活性状態になり筋弛緩が生じる(第I相遮断)、さらに数分後に、終板電位は再分極(静止膜電位)となるが、遊離AChに対して脱分極が起こらず(脱感作状態)、弛緩が続く(第II相遮断)。cholinesterase阻害薬で弛緩作用は拮抗されない。 |
横隔神経-筋摘出標本に0.5Hzの電気刺激を与えると横隔膜筋の収縮が見られる。電気刺激を続けながら、tubocurarine(2μM)を与えると、筋弛緩が得られる。この時、physostigmine(0.5μM)を与えるとtubokurarineの筋弛緩作用に拮抗する。洗浄後、succinylcholine(1.5μM)を与えると、一過性の筋収縮の後、弛緩が見られる。この時、physostigmineを投与すると、弛緩作用が増強される。英国薬理学会作成のシミュレーションソフトを用いた。 |
作用機作による分類 | 薬物 | 副作用など |
|---|---|---|
競合的筋弛緩薬 | d-ツボクラリン(d-tubocurarine) | 下記 |
ベクロニウム(vecuronium) | 麻酔導入薬として良く使用されている。心血管への作用なし。 | |
ロクロニウム(rocuronium) | 麻酔導入薬として良く使用されている。vecuroniumの誘導体であり、作用発現時間がベクロニウムよりも短いのが特徴で、バランス麻酔に用いられる。 | |
パンクロニウム(pancronium) | tubocurarineより5倍作用が強い。 | |
脱分極性筋弛緩薬 | スキサメトニウム(suxamethonium) | 下記 |
デカメトニウムdecamethonium (C10) |
|