局所麻酔薬(Local Anesthetics)

局所に投与して、意識消失をおこさずに、可逆的に無痛を生じる薬物である。Na+ チャネルの開口をブロックし、活動電位の伝導を遮断して、局所麻酔作用を発揮する .


1、局所麻酔法

麻酔法適用部位適応
1)表面麻酔(surface anesthesia)粘膜(口腔、咽頭、結膜など)、 組織浸透性のよい薬物が適する。

挿管、外傷、火傷、 潰瘍の疼痛除去
2)浸潤麻酔(infiltration anesthesia)手術部位の周辺に皮下または皮内注射、知覚神経の末端抜歯、皮膚の手術
3)伝達麻酔(conduction anesthesia)
  a)神経ブロック(nerve block)
  b)脊髄麻酔(spinal anesthesia)

  c)硬膜外麻酔(epidural anesthesia

a)脊柱管内のくも膜下腔に注射
b)脊柱管内の硬膜外腔に注射
  脊髄後根の周辺
c)脊柱管内の硬膜外腔に注射
  脊髄後根の周辺

a)下半身の手術
b)下腹部、胸部の手術

c)下腹部、胸部の手術


2、局所麻酔薬

分類

薬物

特徴

作用時間

エステル型

コカイン(cocaine)

コカの葉から抽出されたアルカロイドで、最初に使用された局所麻酔薬。交感神経終末のおけるノルアドレナリンの再取り込みを抑制し、血管を収縮させるので、血管への吸収が遅く、作用が持続する。

中間

プロカイン(procaine)

最初に合成された局所麻酔薬。組織浸透性が低いので、表面麻酔には不適である。

短い

テトラカイン(tetracaine)長時間作用性で脊椎麻酔に使用される。

長い
アミド型

リドカイン(lidocaine)

表面、浸潤、伝達麻酔などすべての麻酔に現在最も多く使用される。抗不整脈薬としても使用される。

中間

プリロカイン(prilocaine)蛋白結合力が小さく、急速に代謝にされるためアミド型のなかでは最も毒性が低い。歯科では、循環器系疾患の患者にリドカインの代わりに使用される。

中間
メピバカイン(mepivacaine)効果発現が早く(pKaは7.6)、硬膜外麻酔に使用される。

中間
長時間作用性
アミド型

ジブカイン(dibucaine)

脊椎麻酔に使用される。ほかのアミド型はアニリドであるが、本薬物はキノリン誘導体である。麻酔力、毒性ともに強力である


最も長い

ブピバカイン(bupivacaine)
ロピバカイン(ropivacaine)
レボブピバカイン(levobupivacaine)
硬膜外麻酔において、ブピバカインが長時間作用性麻酔薬の代表として使われてきたが、重篤な心毒性が報告され、毒性の少ないロピバカインが開発された。S(-)異性体であるレボブピバカインはラセミ体のブピバカインと同等の効力を持ちながら、心血管への副作用が少ない。


アミド型は、エステル型に比べて薬物アレルギーは少ない。エステル型は、血中のコリンエステラーゼ(cholinesterase)により分解される。アミド型は、肝細胞のミクロソームで分解され、半減期が長い。


1)プロカイン(cocaine)


2)リドカイン(lidocaine)


3、局所麻酔薬の作用機序

          

Naチャネルは、α、β1、β2から構成されている。チャネル機能はαサブユニットにある。Na-channelのαサブユニットは、4つの同じドメイン(I~IV)からなり、各ドメインは6ヶのセグメント(1~6)から構成されている。脱分極刺激により、第4セグメント(S4)の+チャージが、細胞膜の脱分極による電位差を感知し、チャネルが開き(Open)、Naイオンが流入し、続いてKイオンが流出する。イオンの選択性は、第5(S5)と第6(S6)セグメント間にあるSS2セグメントと呼ばれる部分が担っている。ドメインIIIとIVの間の細胞内ループ(inactivation gate)により不活性化(Inactivated)がおこる。プロカイン(procaine)は、第6セグメント(S6)に結合し、チャネルが再活性化を阻害する(No more activated)ことにより、神経の興奮伝導を抑制する(膜安定化作用)。静止電位には影響を与えない。

多くの局所麻酔薬は、3級アミンでpKaが7.5~9.0にある。pH7付近ではイオン型と非イオン型の両方が存在する。非イオン型のみが神経線維膜を通過し、細胞内でイオン型となり作用する。急性の炎症組織では、嫌気的解糖により乳酸が生じ、組織は酸性を帯びる。そのため、麻酔薬が神経線維膜を通過しにくく、麻酔が効きにくい一因となる。

無髄神経は有髄神経より麻酔感受性が高い。また細い神経線維ほど麻酔薬濃度が上昇しやすく、すみやかに麻酔効果が発現する。また感覚神経はチャンネルの開く頻度が多いため麻酔されやすい。このため、感覚神経、とくにC線維(無髄)やAδ(有髄)などの細い神経が麻酔されやすい。

4、血管収縮薬併用

多くの合成局所麻酔薬は血管収縮作用がなく、血管収縮薬が併用される。血管収縮薬としてアドレナリンが用いられる。血管収縮薬の併用は①麻酔持続時間の延長②中毒の減少③止血による手術野の明示という効果がある。アドレナリン禁忌の場合は血管収縮性ペプチドのフェリプレシン(felypressin)が用いられる。


関連サイトの紹介

1、日本麻酔学会 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 Ⅴ 局所麻酔薬

(佐伯、久野)