自律神経薬理学(Autonomic Pharmacology)

1898年、Langleyは自律神経という言葉を用い、交感、副交感神経に大別した。自律神経系に働く薬物の研究により、多くの自律神経系の知識が得られた。 


1、自律神経系模式図

交感神経の節前線維は、胸髄(Th1-Th12)あるいは腰髄(L1-L3)から出る。

副交感神経
の節前線維は、動眼神経(III)、顔面神経(VII)、舌咽神経(IX)、迷走神経(X)などの脳神経から出るものと、仙髄からの24仙骨神経から出るものに分かれる。

緑色の線
は、ACh作動性ニューロン、赤色の線はアミンニューロンを示す。

N:ニコチン受容体(nicotinic receptor)、:ムスカリン受容体(muscarinic receptor)。NEDAは、ノルエピネフリン(Norepinephrine)とドパミン(Dopamine)ニューロンを示す。


2、解剖学的特徴と機能


交感神経系

副交感神経系

節前線維

短い、有髄

長い、有髄

節後線維

長い、無髄

短い、無髄

神経節

効果器より遠い

効果器に近い

神経節でのシナプス比

1:20~30

1:1

心臓

亢進(β1)

抑制(M2)

血管

収縮(α1、大部分の血管) 拡張(β2、骨格筋と肝臓の血管)

拡張(M3、NOを介して海綿体動脈を拡張)

気管支

弛緩(β2)

収縮(M3)

瞳孔

散瞳(α1)

縮瞳(M3)

消化管

弛緩(α2、β2)

収縮(M3)

腺分泌

抑制(α)

亢進(M3)


3、自律神経系の中枢

自律神経系と体性神経系の中枢には明確な境界はなく、両者は重なり合っている。
a)脊髄レベル:自律神経の反射
b)延髄:血圧、呼吸
c)視床下部:体温、血糖、糖や脂質代謝、水や電解質バランス、血圧、性反応
d)大脳辺縁系:運動および内臓活動を伴う情動の統合


4、自律神経薬理の歴史的実験

1905年 Daleの逆転現象 (epinephrine reversal)
細動脈はαとβ受容体を持ち、αは収縮、βは弛緩を引き起こす。Norepinephrineは、β作用がほとんどないので、逆転現象を引き起こさない。





1921年 Loewiの実験:迷走神経を刺激し、心拍出量の減少した心臓(A)からの灌流液を、別の心臓(B)に流してやると、Bの心拍出量の減少が見られた。後に迷走神経刺激によりAChが放出されたためであることを明らかにした。

 

5、眼における自律神経

 

虹彩(Iris)には、副交感神経支配の瞳孔括約筋(Circular fibers、ムスカリン受容体())と/交感神経支配の瞳孔散大筋(Radial fibers、αアドレナリン受容体)がある。

毛様体筋(Ciliary muscles)は、副交感神経(ムスカリン受容体(M))に支配され、水晶体(lens)の厚さを調節している。また、毛様体は血管が豊富で、その上皮は眼房水(Aqueous humor)の産生部位である。

アトロピン(Atropine)により、瞳孔括約筋の麻痺による散瞳と、毛様体筋の麻痺による調節麻痺(cycloplegia)が生じる。

緑内障(glaucoma)は、何らかの原因で眼内圧が上昇し、視神経が傷害され失明にいたる疾患である。閉塞隅角緑内障では、房水(aqueous humor)の出口(隅角)が狭くなり、シュレム氏管(Schlemm canal)から房水の排出が障害され、眼内圧が高くなる。ピロカルピン(pilocarpine)は、毛様体筋を収縮させ、隅角を広くするために房水の流出を増加させ、眼内圧を低下させる。

関連サイトの紹介

1、薬のすべてがわかる!薬学まとめ 末梢神経系の薬

(三木、久野、向井)