利尿薬(Diuretics)

利尿薬は、主として腎臓に働き、尿細管からの水や電解質の再吸収を抑制することにより、尿の排泄を増加させる薬物である。尿量とその組成を決定する因子は、糸球体の濾過量、尿細管での再吸収と分泌である。糸球体の濾過量(GFR)は、125ml/minで、細胞外液は12.5Lであるので、約100分で全細胞外液が濾過される。この間に約100mlの尿ができる。したがって、水は、99.4%が再吸収される。

近位尿細管では、Na+の再吸収により水分子も吸収され、濾過量の1/3になり、間質液と同じ浸透圧になっている。Henle loop下降脚ではNaClと尿素に相対的に不透性であり、水が再吸収される(NaCl濃度は高くなる)。上行脚では、膜の性質が変わり、水分子に不透性で、NaClに対して易透過性となり、Na+、K、Cl-が再吸収される。遠位尿細管から集合管にかけては、Na+の能動的再吸収が起こる。aldosteroneの作用によりK+の分泌が起こる。集合管ではvasopressinの存在下において、水が再吸収される。


1、利尿薬

最大の効果を持つのはループ利尿薬

Diuretics(糸球体濾過量のXX%のNaイオンを排泄する)
[1] 炭酸脱水酵素阻害剤(Carbonic anhydrase inhibitors)(5%以下
[2] 浸透圧利尿薬(Osmotic agents)(5%以下
[3] ループ利尿薬(Loop agents) (20-25%
[4] チアジド系利尿薬(Thiazides)(5-10%
[5] カリウム(K)保持性利尿薬(Potassium-sparing agents)(5%以下
[6] アルドステロン拮抗薬(Aldosterone antagonists)(5%以下
[7] 抗利尿ホルモン拮抗薬(antidiuretic hormone(ADH) antagonists)


(参考)以下の図は、太田東こども&おとな診療所使用薬品解説からの転載です。


利尿薬分類

薬物

特徴

[1] 炭酸脱水酵素阻害
(carbonic anhydrase inhibitors)

アセタゾラミド(acetazolamide)

炭酸脱水酵素の阻害により、糸球体で濾過されたNaHCO3の再吸収抑制と、H+の排泄抑制によるNa+の再吸収抑制をきたし、水分が再吸収されないので尿量が増加する。利尿作用は弱い。眼房水生成を抑制するため、緑内障治療に用いられる。

[2] 浸透圧利尿薬(Osmotic agents)

D-マンニトール(D-mannitol)

mannitolは、糸球体で濾過されるが、尿細管で再吸収されないので、浸透圧が高くなり、水の再吸収が減少し、それに伴いNa+の再吸収も減少するので、尿量が増加する。糖尿病で多飲多尿になるのはこのメカニズム。脳圧亢進など救急医療現場などで緊急処置として使われることが多く、慢性疾患の治療目的ではあまり使われない。急速に投与すると心不全や肺浮腫を来たしやすいので注意する。

[3] ループ利尿薬(Loop diuretics

フロセミド(furosemide)
エタクリン酸(ethacrynic acid)
ブメタニド(bumetanide)

ヘンレ上行脚膨大部で、Na-K-2Cl共輸送体を抑制することにより、NaClの再吸収を抑制し、尿量を増加させる。high-ceiling利尿薬とも呼ばれる。 

[4] チアジド系利尿薬(Thiazides)

ヒドロクロロチアジド(hydrochlorothiazide)
キネタゾン(quinethazone)

遠位尿細管のNa-Cl共輸送体を抑制することにより、NaClの再吸収を抑制し、尿量を増加させる。 即効性はなく、効果もループ利尿薬ほど強くはないが、長時間効果が持続するので、高血圧治療に用いられる。日本人など高Na食の民族には良く効く。以前は、K+低下による耐糖能異常を来たすという理由で糖尿病患者に使わないとされていたが、最近は少量であれば使われる。安価である。ただし、高尿酸血症を来たすので、痛風患者には禁忌。

 チアジド系類似薬インダパミド(indapamide)
クロルタリドン(chlortalidone)
機序はチアジド系と同じ。作用時間が長い。indapamideは、K+の排泄量が少ない。

[5] カリウム保持性利尿薬(Potassium-sparing)

トリアムテレン(triamterene)
アミロライド(amiloride)

遠位尿細管や集合管のアミロライド感受性Na+ channelを阻害し、Na+輸送を抑制する。他の利尿薬と異なり(アルドステロン拮抗薬を除く)、血中K+保持する。高血圧や浮腫の治療において、+低下をきたす恐れがあるループ利尿薬やチアジド系利尿薬と併用される。リドル症候群(Liddle syndrome)は、遠位尿細管上皮細胞管腔側にあるアミロライド感受性ナトリウムチャンネルの遺伝子変異により発現抑制不全を起こす症候群。アミロライド感受性Na+ channelを閉じるアミロライドやトリアムテレンが用いられる。 

[6] アルドステロン拮抗薬(Aldosterone antagonists)

スピロノラクトン(spironolactone)
エプレレノン(eplerenon)
|アルドステロンは遠位集合管や集合管のNa+  channelの分解を抑制することで結果的にNa+  channelを増加させる作用がある。従ってアルドステロン拮抗薬はNa+  channelを逆に減らすことでカリウム保持性利尿薬とほぼ同じ作用を示す。スピロノラクトンは、アルドステロン(aldosterone)受容体を遮断し、Na+  channelを減らしてNa+の再吸収を抑制する。浮腫(心性、腎性、肝性)に対して用いる。代謝活性体のカンレノン(canrenone)が作用の本体である。遺伝子の転写を介しているので、中止してもすぐには高K+血症などの副作用が修正できない。エプレレノン(eplerenon)は、選択的アルドステロン阻害薬で、抗アンドロゲン作用がないため、スピロノラクトンでみられる女性化乳房などの副作用がない。

[7] 抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)拮抗薬(ADH antagonists)トルバプタン(tolvaptan)バゾプレッシン(vasopressin )V2 受容体を遮断する。既存薬でコントロールが不十分な心不全での低ナトリウム血症とうっ血・浮腫の改善効果がある。Naには影響がなく、水だけを排出するので、ネフローゼ、SIADHなどに用いられる。



1) フロセミド(furosemide)

高限界(high ceiling)利尿薬ともよばれ、利尿作用は一番強い。ヘンレ上行脚(ループ)においてNa+-K+-2Cl-輸送系を阻害することにより、Na+、K+の再吸収を抑制する。作用時間が短いため高血圧治療には使わない。しかし、腎不全による浮腫でチアジドが無効の時でも有効であり、肝硬変による腹水や心不全による肺水腫や腎性浮腫に良く用いられる。副作用は、低Na+・K+血症、低Cl性アルカロージスである。


furosemide


2) クロロチアジド(chlorothiazide)

carbonic anhydraseの開発中に見出された。遠位尿細管で、Na+とCl-の再吸収を抑制する。副作用は、低K血症、低Na血症、低Cl性アルカロージス、高尿酸血症。高血圧の治療に広く用いられている。


chlorothiazide


3) アセタゾラミド(acetazolamide)

acetazolamide 赤印のところが活性基である。


炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)は下記反応の左側の部分を触媒する。


糸球体で濾過されたHCO3-は、Na+/H+交換系により分泌されたHと結合して、H2CO3となる。さらに、炭酸脱水酵素(dehydration)により分解され、CO2として近位尿細管に吸収され、再び炭酸脱水酵素(hydration)によりH2CO3となり回収される。アセタゾラミド(acetazolamide)はこの過程を阻害するので、Na+/H+交換系が抑制され、Na+の再吸収が抑制される。このために利尿を引き起こす。また、NaHCO3が排泄されるので、体液は酸性となる。


2、利尿薬と臨床応用

薬物

尿中の電解質の増(+)減(-)

臨床応用

NaCl

NaHCO3

K+

炭酸脱水酵素阻害

+++

緑内障、メニエル病、てんかん、呼吸性アシドーシス

ループ利尿薬

++++

急性肺浮腫、うっ血性心不全、その他の浮腫。低K+血症に注意

チアジド系利尿薬

++

±

高血圧の第一選択薬

カリウム保持性利尿薬

±

利尿および降圧効果は弱く、チアジド系やループ利尿薬の補助薬として用いられる。

アルドステロン拮抗薬±高血圧。高K+血症に注意


3、Na-K-2Cl cotransporterと、Na-Cl cotransporterについて

bumetanide-sensitive Na-K-2Cl cotransporter(165kDa、糖鎖3ケ)とthiazide-sensitive Na-Cl cotransporter (150kDa、糖鎖2ヶ)は類似の構造を持っている。両者は16染色体に存在している。イオンの結合部位と薬物の結合部位は不明である。*は糖鎖。(Am. J. Phyiol., 275, F325, 1998.)

(三木、久野)