交感神経系に作用する薬物(Adrenergic Drugs)

1、交感神経終末部(Adrenergic Synapse)

交感神経終末に取り込まれたチロシン(tyrosine)は、チロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase)によりDOPAとなり、DOPA decarboxylaseによりドパミン(Dopamine、DA)となる。Dopamineは、Dopamine-β-hydroxylaseにより ノルエピネフリン(Norepinephrine、NE)になり、vesicular amine transporterによりvesicleに取り込まれ、貯蔵される。刺激が終末にくると電位依存性Caチャネルが開き、Ca++が流入すると、 vesicleがシナプス前膜と融合し、NEが遊離される。遊離したNEはシナプス後膜のαあるいはβ受容体と結合し情報を伝える。シナプス前膜にある autoreceptorにも働き、NEの合成や遊離を抑制する。不用となったNEの大部分は、シナプス前膜にあるNE transporterにより取り込まれ、再利用される。その他、NEはMAOやCOMTにより一部分解される。

カテコールアミンの代謝

2、アドレナリン受容体と薬理作用

受容体

組織

作用

α1

大部分の血管平滑筋

収縮

瞳孔散大筋

収縮(瞳孔散大)

立毛筋

立毛

ラット肝細胞

グリコーゲン分解

心臓

収縮力増強

α2

中枢シナプス後膜

神経伝達

血小板

凝集

神経終末(シナプス前膜)

autoreceptor

一部の血管平滑筋

収縮

脂肪細胞

脂肪分解阻害

β1

心臓、腎臓

収縮力と心拍数増強

β2

呼吸、子宮、血管平滑筋

弛緩促進

骨格筋

K流入促進

ヒト肝細胞

グリコーゲン分解

β3

脂肪細胞

脂肪分解促進

膀胱膀胱平滑筋弛緩

D1

平滑筋

腎血管拡大

1948年、Ahlquistによりαとβ受容体が提唱される。1967年、Landsらにより、β1とβ2受容体の存在が報告される。

3、代償性反射(Compensatory reflex)

代償性反射が、交感神経作動薬の心循環反応を決定するのに重要 な働きをしている。交感神経作動アミンは、α作用により血圧を上昇させる。この血圧上昇は、頸動脈洞や大動脈弓の圧受容体を刺激して、代償性反射を引き起こす。つまり、迷走神経の緊張がおこり、交感神経緊張の低下が生じ、徐脈や心拍出量の低下がおこる。従って、β作用のない薬物は心臓に対してほとんど作用を生じない。



4、交感神経に働く薬物

a、アドレナリン受容体作動薬アドレナリン受容体遮断薬

受容体

作動薬(アゴニスト, agonists)

遮断薬(アンタゴニスト、antagonists)

nonspecific α

ノルエピネフリン(norepinephrine、NE)
エピネフリン(epinephrine)

フェノキシベンザミン(phenoxybenzamine)
フェントラミン(phentolamine)
エルゴタミン(ergotamine)

α1

フェニレフリン(phenylephrine)
メトキサミン(methoxamine)

プラゾシン(prazosin)
ブナゾシン(bunazosin)

α2

クロニジン(clonidine)

ヨヒンビン(yohimbine)

nonspecific β

イソプロテレノール(isoproterenol)

プロプラノロール(propranolol)
ピンドロール(pindolol)

β1

ドブタミン(dobutamine)
デノパミン(denopamine)

アテノロール(atenolol)
メトプロロール(metoprolol)

β2

サルブタモール(salbutamol)
サルメテロール(salmeterol)

ブトキサミン(butoxamine)

β3

ミラベグロン(mirabegron)
ビベグロン(bibeguron)

 
D1

ドパミン(dopamine,、DA)

 

b、間接型アドレナリン作動薬

エフェドリン(ephedrine)

Norepinephrine(NE)の遊離作用と受容体刺激作用

アンフェタミン(amphetamine)

 

メタンフェタミン(metamphetamine)

NEおよびDAの遊離促進と取り込み阻害

チラミン(tyramine)

神経終末からNEを放出する。

c、アドレナリン作動性ニューロン遮断薬

レセルピン(Reserpine)

生体アミンを枯渇させる。

グアネチジン(guanethidine)

カテーコルアミンの遊離抑制(CA-antireleaser)。続いて、アミンを枯渇させる。

ブレチリ産む(bretylium)

カテーコールアミンの遊離抑制。アミンを枯渇させない。

α-メチルドパ(α-methyldopa)

顆粒に取り込まれ、false transmitterとして働く。

d、アドレナリン作動および遮断薬の臨床応用

薬物作用の分類疾患への適応
α1作動薬低血圧症、鼻粘膜充血、局麻薬と併用しその作用延長、
α2作動薬高血圧症
β1作動薬心不全、ショック(epinephrineを使用)
β2作動薬気管支喘息
β3作動薬過活動膀胱(overactive bladder)
D1作動薬ショック
α1遮断薬高血圧症、末梢血管障害:血管α1B
排尿障害(前立腺肥大症):膀胱α1D、前立腺α1A
褐色細胞腫の診断
β遮断薬不整脈、狭心症の予防、心不全、
高血圧、心筋梗塞の再発予防

5、αおよびβ受容体を介する細胞内情報伝達系

1)α1受容体

α1作動薬が受容体に結合すると、受容体の細胞内第3ループに結合しているG蛋白のGαqにGTPが結合し、活性化される。活性化されたGαqは、phospholipase C(PLC) を活性化する。PLCは、phosphatidylionositol bisphosphateを加水分解し、DAG(diacylglycerol)とIP3が生じる。DAGはPKCを活性化する。一方、IP3は小胞体からCa++を遊離させ、Ca++-dependent protein kinaseを活性化する。

2)α2およびβ受容体

α2受容体の刺激は、Gαi(抑制性G蛋白)を介してadenylate cyclaseを抑制する。一方、β1およびβ2受容体刺激は、Gαs(刺激性G蛋白)を介してadenylate cyclaseを活性化する。ACにより産生されたcAMPは、protein kinase A (PKA)を活性化する。


各種薬物を用いた動物実験(i.v.投与)


[1] phenylephrine(α)60nmol/Kg とnorepinephrine(α>>β)8nmol/Kg は、血圧を上昇させるが、vagusによる反射により心拍数は変化しない。epinephrine(α=β)18nmol/Kg は、α作用で血圧上昇、β作用で心拍数増と血圧低下。isoproterenol(β)1nmolo/Kg は、心拍数増と血圧低下。
[2] prazosin(α1阻害)100nmol/Kg を前処置してから、epinephrineを投与すると、血圧低下部分は変化なし。isoproterenolでは変化なし。
[3] B-HT920(α2 )400nmol/Kg では、末梢では血圧上昇作用、中枢にも働き長期の血圧低下作用がある。
[4] vagusを電気刺激すると心拍数と血圧の低下が見られる。神経節を電気刺激すると上昇が見られる。
[5] acetylcholine 8nmol/Kg は、vagus刺激と類似。histamine 4nmol/Kgは強い血圧低下作用がある。
英国薬理学会作成のシミュレーションソフトを用いた。


(三木、久野)