抗感染薬(Antiinfective drugs)(2)抗ウイルス薬と抗真菌薬、その他(Antiviral agents, antifungal agents and others)

I.抗ウイルス薬(Antiviral agents)

ウイルスの増殖は、宿主細胞の細胞内代謝に大きく依存しているために、ウイルスの増殖のみを抑え、宿主細胞に毒性を持たない薬物の開発が困難であり、現在のところ抗ウイルス薬の種類は少ない。最近、HIV、インフルエンザウイルスやC型肝炎ウイルス感染の治療薬の要請があり、ウイルス増殖に特異的な過程である、1)ウイルスの吸着と侵入、2)脱殻、3)ウイルス構成成分の合成、4)ウイルス粒子の形成(組み立て)、5)ウイルスの放出(出芽)を特異的に阻害する薬物の開発が進められている。

感染症

薬物

作用機作および副作用

ヘルペスウイルス

ヒトに対して水痘と帯状疱疹を引き起こすDNAウイルス。初感染時に水痘を引き起こす。治癒後の非活動期は神経細胞周囲の外套細胞に潜伏しており、何らかの原因で免疫力が低下するとウイルスが再び活性化し、帯状疱疹を引き起こす。


アシクロビル(acyclovir)

単純ヘルペスウイルスおよび帯状疱疹ウイルス感染に有効。ウイルス特異的なチミジンキナーゼによってリン酸化され、活性型acicloGTPに変換されるが、acyclovirには糖鎖がなく3'-OHがないために、これがチェーンターミネーターとしてウイルスDNA合成を阻害する。副作用:錯乱、気管支痙攣、痙攣など

イドクスウリジン(idoxuridine)

単純ヘルペスウイルスによる角膜炎に用いる。ウイルスDNA合成を阻害する。

ガンシクロビル(ganciclovir)

サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)に有効である。ウイルスのdeoxyguanosine kinaseによりリン酸化され、ウイルスのDNA polymeraseを阻害する。

インフルエンザウイルス  

感染症であるインフルエンザを引き起こすRNAウイルス

●いずれの薬物も発症から48時間以内の効果しか確認できていない。
●いずれの薬物も症状が出る期間を05~1.5日短縮するだけである。

アマンタジン(amantadine)

A型ウイルスの侵入初期の脱殻(uncoating)を阻害する。B型には効かない。

ザナミビル(zanamivir)
オセルタミビル(oseltamivir)
ぺラミビル(peramivir)
ラニナミビル(laninamivir)

ウイルスの複製と出芽に必須であるノイラミニダーゼ(neuramidase)を阻害する。 Aと B型感染に有効である。ザナビビルは最初に開発された抗ノイラミニダーゼ薬で、吸入薬として用いられる。オセルタミビルは経口で服用され、若年者で、幻覚や異常行動が見られることがある。ぺラミビルは点滴静注用で、1回の投与で治療が完結する。ラニナミビルは吸入薬で、一回の吸入で治療が完結する。

バロキサビル(baloxavir)インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することでウイルスの増殖を抑制するので細胞内でのウイルスが増えない。AとB型感染に有効である。1回の服用で効果がある。

ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus、HIV

後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるRNAウイルス

●治療目標は血中ウイルス量(HIV RNA量)を検出限界以下に抑え続けることである。
●治療は原則としてメカニズムの異なる3剤以上からなる薬剤で開始する。このため、2種以上の薬物を含む配合剤も汎用される。
●治療により免疫能のいくつかの指標が改善しても治療を中止してはならない。


ジドブジン(zidovudine、AZT)

核酸型逆転写酵素阻害剤(Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitors、NRTI)に分類される最初の抗HIV薬。HIV感染細胞内で、リン酸化され、三リン酸体(AZTTP)となり、HIVの逆転写酵素を阻害する。AZTTPは、細胞のDNA polymeraseより、ウイルスの逆転写酵素に100倍親和性が強いので、Tリンパ球を傷害しない濃度でウイルスの増殖を抑制する。副作用:重篤な血液障害(汎血球減少)。現在、NRTIとしては、ラミブジン(lamivudine、3TC )が良く用いられる。

アタザナビル(atazanavir、ATV)

プロテアーゼ阻害剤(protease inhibitors、PI)に分類される。ウイルス粒子産生に必要なプロテアーゼを阻害する。他の抗レトロウィルス薬との併用が推奨される。ウイルス曝露後の予防にも用いられる。

エファビレンツ(efavirenz, EFV)

非核酸型逆転写酵素阻害剤(Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitors、NNRTI)に分類される。アナログとしてではなく、構造的に逆転写酵素を阻害する。他の抗レトロウィルス薬との併用が推奨される。ウイルス曝露後の予防にも用いられる。

ドルテグラビル (dolutegravir 、DTG)インテグラーゼ阻害剤(integrase strand transfer inhibitors、INSTI):このシリーズの薬は宿主細胞内でウイルスから逆転写された産物を宿主DNAsへ組み込む過程で、逆転写されたウイルスcDNAを宿主DNAに組み込む過程を阻害する。大部分のHIV感染者に対して推奨される組み合わせのキードラッグである。他のINSTIとしては、ラルテグラビル (raltegravir、RAL)がある。

B型肝炎ウイルス

血液や体液を介して感染するDNAウイルス

現在の治療薬では、ウイルスの完全排除は期待できない。

ペグインターフェロンα2a(peginterferon α-2a)

インターフェロンは様々な酵素を誘導し、ウイルスRNAを分解したり、蛋白合成を阻害する。ベグインターフェロンはpolyethyleneglycol(PEG)を付加し、分解を遅くしたものである。

ラミブジン(lamivudine、3TC )核酸アナログ製剤に分類される。逆転写酵素阻害により、ウイルスの増殖を抑える。HIVにも使われる。アデホビル(adefovir )、エンテカビル(Entecavir)、テノホビル(Tenofovir)などの逆転写酵素阻害剤も用いられる。

C型肝炎ウイルス 

感染すると慢性肝炎、肝硬変、肝がんと進行する可能性があるRNAウイルス

 C型慢性肝炎治療の目的は、HCVを体内から排除することSVR(sustained virological response、ウイルス学的著効)。

2014年9月、インターフェロンを使わない飲み薬だけの治療が始まり、現在ではC型肝炎の抗ウイルス治療の主流となっている。

●現在では95%以上の例でSVRが達成されている。

ペグインターフェロンα2a(peginterferon α-2a)+リバビリン(ribavirin )+シメプレビル(simeprevir)

上記シメプレビルの代わりにテラプレビル(telaprevir)を用いた3剤併用


アスナプレビルダクラタスビル(asunaprevir/daclatasvir)

ソホスブビル・レジパスビル(ledipasvir/sofosbuvir

グレカプレビル・ピブレンタスビル(glecaprevir/pibrentasvir)

インターフェロンを基本とした治療では、インターフェロンとリバビリンに加え、C型肝炎ウイルスに直接作用する薬剤(直接作用型抗ウイルス薬、DAA (direct-acting antiviral agents))として、シメプレビル(NS3/4Aプロテアーゼを阻害)あるいはテラプレビル(HCV NS3-4Aプロテアーゼ阻害薬)を併用する3剤療法が一般的。3剤併用することにより、インターフェロンが効きにくいC型のgenotype 1にも約80-90%が有効。副作用:インターフェロンによる発熱、頭痛、悪心などのインフルエンザ様症状、白血球減少、血小板減少、傾眠、錯乱、痙攣、うつ症状など。

1型に対する経口治療薬ダクラタスビル(HCV NS5A複製複合体を阻害する)とアスナプレビル(HCV NS3/4Aプロテアーゼを阻害する)の2剤併用療法(24週)が最初に登場した。現在1型のC型肝炎ウイルスに対しては、ソホスブビル(HCV NS5Bポリメラーゼを阻害する)・レジパスビル(NS5A複製複合体を阻害)配合錠による治療(12週)、グレカプレビル(NS3/4Aプロテアーゼを阻害)・ピブレンタスビル(NS5A複製複合体を阻害)配合錠による治療(8週または12週)などが承認されている。DAAsはその高い治療効果が期待される一方、ウイルスに直接作用する薬剤のため、薬剤耐性の問題がある。

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬は開発が進められているところである。


レムデシビル(remdesivir)

モルヌピラビル(molnupiravir) 


デキサメタゾン(d
examethasone)

バリシチニブ(baricitinib)


カシリビマブイムデビマブ(casirivimab/imdevimab)


ソトロビマブ (Sotrovimab)

注射薬。RNA 合成酵素阻害薬、重症例では効果が期待できない可能性が高い。

経口薬。リボヌクレオシドアナログであり、SARS-CoV-2 における RNA 依存性 RNAポリメラーゼに作用することにより、ウイルス RNA の配列に変異を導入し、ウイルスの増殖を阻害する。重症化を3割程度抑制。

ステロイド薬。英国で行われた入院患者を対象とした大規模多施設無作為化オープンラベル試験では、デキサメタゾンの投与を受けた患者は、標準治療を受けた患者と比較して致死率が減少したことが示された。

ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬。レムデシビルに加えて、バリシチニブまたはプラセボ(対照)を投与した 臨床試験で有効性が報告されている。

中和抗体薬。新型頃ウイルス スパイク蛋白の受容体結合ドメインに対するモノクローナル抗体であり、発症から時間の経っていない軽症例ではウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示されている。オミクロン株に対しては無効。

中和抗体薬。カシリビマブイムデビマブと同様のモノクローナル抗体であるが、オミクロン株に対しても有効とされる。


acyclovir

II.Antifungal agents(抗真菌薬)

真菌は、真核細胞であり動物細胞に近いので、抗真菌薬の全身投与では、一般的に副作用が強い。抗癌剤や放射線療法による免疫力が低下した癌患者、HIV感染による免疫不全患者、高齢者などに重篤な深在性真菌症が増加している。

真菌感染部位と
投与
薬物名作用機作臨床適応と副作用
深部臓器感染症の全身投与治療薬アムホテリシンB(amphotericinB)

エルゴステロール(ergosterol)と結合し、細胞に穴を形成し、細胞膜の透過性亢進する。アスペルギルス症とムコール症の第一選択薬。毒性が強く、静注で戦慄、発熱などの急性副作用と、遅れて出てくる強い腎毒性や血液障害などがある。
ミカファンギン(micafungin)細胞壁1,3- β-D-glucan
合成酵素阻害

アスペルギルス症、カンジダ症に有効。




ミコナゾール(miconazole)
フルコナゾール(fluconazole)
クロトリマゾール(clotrimazole)
イトラコナゾール(itraconazole)
ボリコナゾール(voriconazole)

真菌のP450を阻害することによりergosterol合成を抑制するfluconazoleおよびitraconazole:クリプトコックス症とカンジダ症。

voriconazole:アスペルギルス症
比較的副作用が少ない。
フルシトシン(flucytosine、5-FC)核酸合成阻害耐性ができやすく、amphotericinBと併用

皮膚・粘膜感染症の全身投与治療薬ラミシール(lamisil)
イトラコナゾール(itraconazole)
皮膚などのケラチンを含む細胞に蓄積し、白癬菌の侵入防止と菌の分裂を阻害する。爪白癬症の経口治療薬
副作用:肝機能障害の頻度が高い。

テルビナフィン(terbinafine)膜ergosterol合成阻害皮膚真菌症に有効

局所真菌症の治療薬ナイスタチン(nystatin)細胞膜透過性亢進カンジダ症

トルナフタート(tolnaftate)
リラナフタート(liranaftate)
膜ergosterol合成阻害皮膚白癬症

II.Others(その他)

1.抗寄生虫薬

1)イベルメクチン(ivermectin)

イベルメクチンの発見と開発に関する主たる共同研究者であった大村智氏とウィリアム・キャンベル(William Campbell)氏は、線虫感染症の新しい治療法の発見による功績で2015年ノーベル医学生理学賞を受賞した。抗マラリア薬アルテミシニンの発見者として、屠呦呦(Youyou Tu)氏も同時に受賞した。

イベルメクチンは、失明を引き起こす「オンコセルカ症」や慢性的な炎症や腫れを引き起こす「リンパ系フィラリア症」などの原因になるヒトの寄生虫感染だけではなく、家畜などの哺乳類にも広く用いられている。アフリカなどにおいて数億の人々を失明と障害から救ったことが高く評価されている。日本では、ヒトの疥癬症やイヌのフィラリア症などに用いられている。また、イベルメクチンの服用者を吸血した昆虫も殺すことから、マラリア感染対策にも効果が期待されている(論文をみる)。

イベルメクチンは、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Clチャンネルに選択的かつ高い親和性を持って結合し、不可逆的に活性化することで、線虫や昆虫などの無脊椎動物を殺す。このグルタミン酸作動性Clチャンネルはヒトやイヌなどの哺乳類には存在しないので、当該チャンネルを介する副作用は認められない。なお、2021年10月時点では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する有効性は確認されていない。

ivermectin

関連サイトの紹介

日本エイズ学会 HIV感染症治療委員会  HIV感染症「治療の手引き」
2、国立国際医療研究センター肝炎情報センター B型肝炎治療 C型肝炎治療
3、
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き

(三木、久野)