免疫系に作用する薬(Drugs acting on Immune System)
1. 免疫抑制薬(Immunosuppressants)
主に臓器移植後の免疫抑制に用いられる。自己免疫(結合織)疾患にも有効である。ステロイドには免疫抑制作用以外にも抗炎症作用、抗腫瘍作用などがある。
a.サイトカイン合成抑制薬
T細胞における、サイトカイン合成抑制薬の作用点とサイトカイン遺伝子発現抑制機序 |
薬物 | 作用機序など |
---|---|
シクロスポリンA(cyclosporin A) | 真菌の代謝物質から分離された環状ポリペプチドで、腎毒性がある。臓器移植時の拒絶反応抑制、重症筋無力症に使用。 |
タクロリムス(tacrolimus、FK506) | 真菌の代謝物質から分離された環状マクロライド系抗生物質で、免疫抑制作用はシクロスポリン(ciclosporin)の10~100倍強い。 |
シロリムス(sirolimus、rapamycin) | イムノフィリンに結合するが、カルシニューリンを抑制せず、同様の作用を示す。作用機序は、mTORが作るmTORC1複合体の機能阻害。腎毒性が少ない。 |
エベロリムス(everolimus)、テムシロリムス(temsirolimus) | シロリムスの誘導体。mTOR阻害剤として作用する。根治切除不能又は転移性の腎細胞癌、心移植における拒絶反応の抑制。エベロリムスは、薬剤溶出性ステントにも使用。 |
tacrolimus
b. リンパ系抑制薬(細胞毒性薬)
抗腫瘍薬のうち、リンパ球系への作用が強いものが用いられる。従って、特異性が低いため、副作用に注意が必要である。
薬物 | 作用機序など |
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シクロホスファミド(cyclophosphamide) | アルキル化薬で、DNAを架橋する |
アザチオプリン(azathiopurine) | 生体内でグルタチオンなどと反応し、6-メルカプトプリン(6-MP)に変化して作用 |
メトトレキサート(methotrexate) | 葉酸代謝拮抗薬、葉酸を必要とする核酸合成の阻害 |
ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil) | プリン代謝拮抗薬で、体内でミコフェノール酸となり、イノシトール一リン酸脱水素酵素を阻害し、リンパ球でのプリン体合成を阻害し、臓器移植後の拒絶反応を抑制する。 |
腎移植後の免疫抑制療法
(中外製薬のホームページより)
c.ステロイド類(グルココルチコイド)
免疫抑制作用(リンパ球機能抑制)と抗炎症作用がある。プレドニゾロン(predonisolone)、ベタメタゾン(betamethasone)、デキサメタゾン(dexamethasone)などがあり、経口、点滴静注、筋注などで使用される。抗炎症薬(Anti-inflammatory Drugs)参照のこと。
2. 免疫刺激薬(Immunostimulants)
免疫賦活薬ともいわれ、癌、感染症など免疫機能低下時に使用される。
分類 | 薬物 | 作用機序など |
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免疫グロブリン |
| 体液性免疫の補充に使用。全般的と特異的(HB、破傷風)に抗体価を上昇させたものがある。逆に、ヒトリンパ球に対する抗体などで、免疫抑制をはかる場合もある。天然型が望ましい。除去相半減期は20-25日。ペプシン処理したものはFC活性がなく、半減期9日。 |
サイトカイン類 |
| 一種の補充療法と考えられる。発熱、過敏症に注意。 |
| インターフェロン(IFN):IFN-α、IFN-β、IFN-γ | 抗ウイルス薬、抗腫瘍薬(腎癌、骨髄腫、黒色腫、など)として使用される。 |
IL-2遺伝子組換体:テセロイキン(teceleukin)、セルモロイキン(celmoleukin) | 血管肉腫に使用。 | |
非特異的賦活薬 |
| 作用機序不明 |
| ウベニメクス(ubenimex) | 本剤を担癌マウスに投与すると、その腹腔マクロファージ、脾細胞、NK細胞等が非特異的に活性化され、腫瘍の増殖抑制あるいは細胞障害作用が認められていること、また、アミノペプチダーゼ類を介して宿主の免疫担当細胞表面に結合することが認められていることから、抗腫瘍免疫能を活性化することにより、抗腫瘍作用を発現すると考えられている。抗生物質。成人急性非リンパ性白血病の寛解維持に使用。 |
3. 抗アレルギー薬(Antiallergic drugs)
I型アレルギー(気管支喘息、鼻炎、皮膚炎など)に対する薬物。気管支喘息治療薬の項参照のこと。
4. アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis、Atopic eczema)治療薬
アトピー性皮膚炎(AD)は、「増悪・寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病変とする慢性炎症性疾患であり、患者の多くはアトピー素因を有している」と定義されている。特に、中等度から重症のADは、広範囲な発疹を特徴として、持続する難治性のかゆみ、皮膚の乾燥、亀裂、紅斑、痂皮と毛細管出血を伴うことがある。非常に頻度の高い皮膚炎で、2000~2002年に行われた厚生労働省研究班による全国調査では、3歳児:13.2%、小学6年生:10.6%、大学1年生:8.2%であった。
アトピー性皮膚炎の炎症に対して有効性と安全性が多くの臨床研究で検討されている薬剤は、ステロイド外用薬とタクロリムス軟膏である。これら2種類の薬物による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、再燃が高頻度かつ長期に認められる症例に対して、デュピルマブ(dupilumab)という抗体医薬の有効性と安全性が確認されている。デュピルマブは、IL-4受容体αサブユニットに特異的に結合することで、IL-4及びIL-13のシグナル伝達を阻害するヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体である。デュピルマブは、活性化Th2細胞から産生されるサイトカイン(IL-4、IL-13)が引き起こす皮膚バリアの欠損を抑制すると考えられている。デュピルマブは、難治性の気管支喘息にも有効であることが報告されており、日本でも2019年3月に承認された。デルゴシチニブ(delgocitinib)は、細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)ファミリーに対する阻害作用を示し、免疫反応の過剰な活性化を抑制することでアトピー性皮膚炎を改善する、外用薬(軟膏)として用いられる。2020年1月に承認された。
話題
ブタの内臓は人間のものと同じ大きさで、機能的にもよく似ている。しかし、ブタの臓器を人間に移植するには難しい問題があった。移植した際に、豚のゲノム内に潜むウィルス性疾患が顕在化することがあったからだ。研究成果の発表を行ったeGenesisによれば、すべてのブタに認められるブタ内在性レトロウイルス(PERV)を遺伝子編集を用いて不活性化することに成功したとのこと。これでブタの臓器を人体で利用するという、異種移植への道が開かれることとなる。具体的には、ブタの胚細胞に対して遺伝子編集を行いつつ、62個のレトロウィルスの非活性化を行いながら細胞を生かし続ける技術を開発したそうだ。処理後の胚を胎内に移植することで、PERVフリーなブタに成長する。eGenesisは、遺伝子編集を行ったブタの様子を注意深く観察し、「PERVフリーのブタから、安全で効果的な異種間臓器移植を実現できるように」していく予定とのこと。(D. Niu et al, Science 357, 6357, 1303, 2017、論文をみる)
関連サイトの紹介
1、東京女子医科大学病院 腎臓内科 免疫抑制薬
2、国立がん研究センター「がん情報サービス」 免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ
(佐伯、久野)